lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

本は毒である

小学生の頃、母はわたくしに次郎物語のセットを渡した。読みなさい。と。小学生の自分に読めるわけもなくただ本を見つめていると母はノートと漢和辞典を置いた。漢字から調べろというのだ。本当に嫌で気の遠くなる作業であった。漢字を調べたところで意味など理解できるはずもない。以来、読書は大嫌いになった。十歳の時に両親の離婚をきっかけに苫小牧から十勝に引っ越してきた。カルチャーショックを受けた。遊び場がないのである。仕方なく読書をする事になったのだがこれが間違いないというかわたくしのサブカルへのベースになった。それこそ難しい漢字が連なっていたのだが飛ばし飛ばし読んだ。江戸川乱歩である。あの魑魅魍魎とした世界にどっぷりとハマった。わたくしが歌舞伎好きなのもこの世界観にあるのかもしれない。というのも苫小牧にいる時に祖父母の家の二階を貸していたのだがここでは日本舞踊を教えていた。いつも三味線の音と踊りの先生が生徒さんに舞踊を教えていた。祖父が昔、芸者遊びをしていたDNAか母が呉服屋に働いていたDNAか祖父のお兄さんが日本画家であったりとかどうにもこうにも着物や畳や床板に引き込まれる。また家自体も炉があったり離れや池があったりとニッポンという感じであった。この江戸川乱歩の虚構な世界というのもアル中であった母の奇妙な行動にマッチしていてゾクッとするのである。そこにわたくしは寺山修司を知る。わたくしの中で寺山文学は今でもトップである。あの天井桟敷というネーミング然りお祭りで見たお化け屋敷の看板、見世物小屋、紙芝居。とにかく不気味なのである。そして両者共に猥褻なのである。子ども心にこの湿った世界は何なのかと思った。これは母が精神病棟で知り合ったという女性の家に行った時に感じた。年上の彼女はいやらしくベットにシミーズ姿で座り年下の男性と煙草をくゆらせていた。これなのである。この元風景からわたくしは鈴木いづみも好きである。快楽を貪るだけの淫靡な世界。破廉恥より重く動作をする。この物語にはやはり着物が不可欠なのである。帯締めで縛り上げ固定をする。以来わたくしは緊縛の世界も好きでとある緊縛の会にも所属している。そうなると必然的に団 鬼六や明智先生に興味をもつ。そして快楽の動作からバクシーシへと行きリアル過ぎて具合を悪くした。そうして変な人格が形成されたのである。粘膜が濡れるというのを知る前から。

三途の川の右側を見た

昨日の誕生日はお寿司とステーキをご馳走になった。りんのすけが呑めそうならお刺身もあるよ。と、言われ二杯だけにごりを呑んだ。切ってもらったスイカを食べると末期の水の様に身体に染み渡った。子どもの頃から身体が弱く度々入院をしては必ずスイカを要求していた。弱っている時のスイカの味はいつの時でも変わらない。そしてすぐに横になった誕生日、プレゼントはグッチのキーケースとスワロフスキーのネックレスを貰った。どうもありがとう。二週間以上、全身の不随意が強く座っているのもつらい。今日は今年一の痛みに見舞われ布団は汗でびっしょりとなった。グレゴリオ聖歌を聴きながら友人に生きて。と、言われた言葉を思い出していた。他の友人には一人でいつもいる中、救急車も呼べなかったらどうするの?と、言われた事があるので携帯電話を枕元に置いた。凄まじい不随意の痛みの中ふと友人の顔が浮かびそこにいないのに手を伸ばすと気を失っていた。気がつくと全身汗だくであったのでなんとか背中に入れた汗取りのタオルを替え着替えて洗濯を回した。汗で湿った布団に布団乾燥機も入れた。また布団に入り以前友人と死んだ後の世界について話した事があった。僕は死んだ後にも世界があってそこで楽しく暮らせると思うのです。と、言ったのでわたくしは、死んでもまた出逢える?と、聞いたら、逢えますよ、きっと、いや必ず逢えますよ。。と、言ってくれた。そんな事を考えてまた気を失った。次に気がつくと、生きていた…と、思った。自分が亡くなった時にはドレスシャツがいいかなぁ…ブーツを入れてくれるのかなぁ…杖とパイプは入れてもらいたいなぁ…と、朦朧としまた気を失った。一日でこんなにも気絶をし凄まじい痛みと左肩のジストニア。夜になり不随意でお腹の肉が内側へ巻き込まれ心臓に痛みが響き脳がうごめく痛みの中また気を失った。現在も光の眩しさと指の硬直に耐え書いている。コールドターキーの凄まじさ。友人に、君は生きろ。と、言われた言葉が頭をかすめる。みんなに生きろ、生きろ。と、言われ今日も生きている。

生(せい)の速度

平成十四年 三月 二十五日 わたくしの母はベッドの中で亡くなった。四十八歳、脳溢血。死亡推定時刻はわたくしを産み落とした時刻とほぼ同時刻。その日に限って夕食後に空腹だったのか母は丼でご飯を食べたという。その頃、お誕生日おめでとうの着信履歴があったのだがわたくしが気づいた頃には寝ている時間だと思いかけ直さなかったのが後悔になった。脳溢血なので結果、嘔吐していたがいつだって産みの苦しみは空腹なのかもしれない。母はアルコール依存症から鬱病アルコール中毒、大量の薬による躁鬱病と成り上がっていたが精神薬による副産物だったと思う。そんな母はとにかく両親に迷惑をかけてきた。祖父の兄が営む石川県片山津の呉服屋に就職をしお金を貯め免許を取得し事故を起こした。以来、彼女は恐怖から免許を更新する事はなかった。母の両親は会社を経営しており母は札幌にいる育ての母の様な女性を慕っていた。わたくしが子どもの頃、母の家出に付き合わされ札幌に逃げるも祖父達に連れ戻される。わたくしが産まれる前は同じアパートのヤクザ者の女性と函館まで逃げ危うく組の女になりそうなところをわたくしの父が迎えに行き話を納めたりと。祖父は刺青が入っていた方なのでその筋では話が早く、おじきの所の娘さんをさらってしまった。と、逆詫びである。とにもかくにもウイスキーを煽ってはいなくなり呑みたさから二階の窓から出て行ったり冬場に道路で寝ているところを救急車で帰宅をしたりと本当に子ども心に嫌であった。アルコール中毒者というのは刃物沙汰が多く血まみれの母をベッドの間から父と引き上げ父が湯船で身体を洗い母は即入院である。その血に染まった浴槽をまだ九歳のわたくしは洗った。幻覚症状もあり呑んでは逃げるの繰り返し。逃げたかったのではなく探して欲しかったのだと思う。そうして両親は離婚をし父方の実家がある十勝に十歳で越してきた。わたくしは学校で次第にいじめに遭っていたが母には言えなかった。学校が休みになると苫小牧の母に会いに一人特急に乗った。会いたさ半分で。行けば嬉しさから呑む、わたくしが帰るとなると寂しさから呑む。娘がいないと探し回る。可哀想な人であった。晩年は難病を発病し蝕まばれた身体でもたまに呑んでいた。それでもわたくしは呑ませ帰りにはお小遣いを置いた。老眼だと言った時には大きなテレビとビデオデッキを買ってあげた。欲しがる物を買ってあげた。わたくしが後悔をしたくはなかったしさせたくはなかったからである。そんな母はわたくしの誕生日に亡くなった。六七日はこどもの日、四十九日は母の日。棺に入れたお金はお地蔵さんの様な形になりお腹の所には小さな子どもの様な形になっていた。いつまでも一緒にいたかったのかもしれない。わたくしの両親はご飯屋を営んでおり祖母に育てられたので祖母を母さんと呼んでいる。母さんの誕生日は二月二十五日なので月命日には母さんと二人やるせない気持ちになる。母の訃報を聞き苫小牧まで泣きながら行ったあの日、祖父も母さんも正気を失っていた。母は難病の事を自分の両親には隠していた。祖父はポツリと、いつも逃げられてな…と、呟いた。。死斑で痣だらけの母をわたくしは痣だらけでしょ、親より先に亡くなるのなんて親不孝でしょ。と、さすった。冷たくなった母の身体は単なる冷えた肉の塊であった。数日前に染めてあげた綺麗な髪の毛に死に化粧。三日間、一人っ子のわたくしは冷たくなった母に寄り添った。父はわたくしが十五歳の時に事故で頸椎損傷になっていたので母の最期を見る事はできなかった。総てが終わった。と、母の側にいた時、白く霞んだ柱状の物が母の肉体から母の部屋に動くのを見た。不思議な経験であったが母の弟さんは階段を昇る足音を聞いた。と、言った。そんな否が応でも繰り返す母の命日とわたくしの誕生日。わたくしもお酒が好きなので蛙の子は蛙として乾杯をする。生きる意味を問いながら。
暗いわ!
https://youtu.be/-EN9iecLfmw

私の上着

夜の洗車場にたむろをするのが日課であった。そこに行けば誰かしら洗車に来ていた。そこにツーシーターのスポーツカーが入ってきた。車は見た事があったが話をした事はなかった。二個上の先輩が言った。あれ、俺の先輩だよ。話しかけてみ?わたくしは話しかけてみた。引きが悪く話づらかった。それから何度か洗車場で会っていたが話はしていなかった。放課後、駅前を歩いていると写真屋の前でスーツ姿の彼が立っていた。あれ?こんにちは、どうしたんですか?スーツなんて着て。ここでバイトを頼まれたんだけど暇くさくてさ、誰か通るかなぁと思って、りんが第一号。今日の夜って何をしているんですか?うーんとね、暇だね。暇ならドライブに行くか?うん!意外と話やすくて驚いた。運転をする彼に言った。洗車場にいた時にあんまり話をしてくれなかったから嫌われているのかと思っていたんだ。そんな事はないよ、りんの周りにいた奴らが苦手だっただけで今、一緒にいるじゃん。うん、霧が濃くなってきたよ、早めに戻ろう?パークゴルフ場の駐車場に車を停めた。わたくし達は深夜のパークゴルフ場に忍び込んだ。真っ暗闇の階段を降りる時に手を繋いでくれた。目が慣れてきても何も見えない。なんか水の音がするけど…手探りで探しあてた木の枝で音のする方に刺してみた。おい、目の前、池だわ。しかも結構深い。彷徨って大きな木にぶつかった。笑いながら、りん大丈夫か?こんなでかい木なのにりんだけぶつかって、おでこ見せてごらん?暗くて見えねぇわ。と、言いながらわたくしの顔を両手で触りながら、ここだな?と、彼はキスをしてきた。次第に激しくなった舌の動きを止めないまま彼は革ジャンを脱ぎ芝生に敷くとわたくしを座らせた。座って抱き合った。彼は言った。今日、連れて帰っていい?愛のないエッチはしないよ?と、言ったら、一晩中、愛してやる。と、言い、寒くない?と、革ジャンを着せてくれた。後から部屋で温めてやるからな。と、言った。テレビの灯りだけの部屋の布団の中にいた。朝までずっと腕の中にいた。朝になるり布団から顔を出すと枕元にわたくしのブラジャーが丁寧に畳んで置いてあった。シャワーを浴びた彼は頭にタオルを巻いたまま朝ご飯を指で食べさせてくれた。りん、学校つまらんべ?いじめられてんだったらたまに迎えに行ってやるわ。それとりんに何かやりたいな、俺もうちっちゃくて入らんからこれやるわ、りんに丁度いいと思うわ。と、スカジャンをくれた。この柄ねぇ、珍しいし俺のだって見たらみんな分かるやつ。着てきな。守られている気がした。学校に送ってもらうと車のマフラー音にみんながこちらを見ていた。送ってくれてどうもありがとう。と、言ったら、りん忘れ物あるぞ。ん?チュウ忘れてる。夜に洗車場に行くと先輩達が、あら、りん、スカジャン買ったの?あぁ?○○のスカジャンでない?そうだよ、くれたんだ。それ、あいつ誰にもやらんって言っていたスカジャンだよ!?うん、ちっちゃくて入らなくなったからあげるって言っていたよ。それにしても着れなくなっても持ってたやつだよ、それぐらい大事なやつだよ?借りてるんでなくてくれたの?前の女にもやらんかったんだよ?それから何度かドライブに連れて行ってもらった。彼はこんな事を言った。俺とりんはさぁ、騙すより騙された方が楽じゃん、チュウしていい?りんはいい子だね。ゲームセンターの駐車場でわたくしを朝までおんぶをしてくれた。フィルターを通してでしか人を見れなかったわたくし達が一緒にいる時はいつも霧がかかっていた。

パンチライン

俺の女、何かした?見知らぬ男性はそう言った。友人とわたくしはビアパーティーに来ていた。二人組の男性にしつこく話しかけられていたところ一度、通り過ぎた男性であった。わたくし達と二人組の男性が知り合い同士なのか確認をしたそうだ。俺の女、何かした?と、わたくしの前に立った男性は二人組に詰め寄った。面倒な事を避けたい二人組はその場を去ろうとしたが見知らぬ男性は後を追いかけたのでわたくし達は止めに入った。わたくしの正面に立った男性は言った。名前なんてーの?りん。俺はトモ。呑みに連れてっちゃるわ。派手なポリシャツを着ていた男性は身なり相応にチャラい言葉を発した。友達にどうする?と、聞くと、りんが誘われたのだから二人で行っておいで。と、言った。歩き方までチャラい男性と呑みに行った。カウンターに座り話をしていると意外に真面目な部分もあって身なりは虚勢でしかないのかな。と、感じた。俺の好きな歌、唄っていい?"Let It Be"わたくしはまるでドラマの中にでもいるのかと思った。しばらくすると酔った彼はわたくしの肩を抱き口の中に舌を入れてきた。今日はここまで、送ってやるわ、家どこ?わたくしはあまり人に住んでいる場所を教えない。これは別れた時のトラブルを避ける為だ。会ったばかりの男性なら尚更でわたくしは自分の家とは逆方向に送ってもらった。電話番号、教えて。と、携帯電話が無い時代、男性はボールペンを出しレシートの裏に書いた。俺の番号も教えるわ。と、もう一枚のレシートの裏に書いた。レシート何枚、持っているの?そうやって何人にも声をかけているんでしょ?バレた?財布、見てみ?もうレシートは無いべ?と、言い、わたくしの頬を両手で包み口づけをしてきた。んじゃ、明日ね。と、男性は言った。わたくしは拍子抜けをした。会ったその日にキスをされ明日ね。と。遊ばれているんだ。ならばこちらから明日、電話をし遊んでやってもいいと思った。家とは逆方向の夜道を一人で歩いた。歩き疲れたわたくしは今日はもう寝よう、とした。電話が鳴った。電話に出ると、さっきの男性であった。ちゃんと帰ったか心配でさぁ、あれでしょ?かなり歩ったしょ?(何で知っているんだ…)りんはきっと真面目な女だと思って家なんて教えないと思ったんだよねぇ、してさっきもかけたけど電話に出ないから電話番号も嘘かなぁって思ったんだけど合ってるね。明日、何時にする?学校、何時に終わる?迎えに行くわ。わたくしは彼のペースに飲まれた。次の日、本当に学校に迎えに来た。りん、一回会社に戻らんとならんからちょっとだけ待ってて。うん。待っている間、考えていた。忙しいのなら何も今日、会わなくても良いのにせっかちというか何なんだろう。と、考えながら、考えているという事はもう彼の事が気になっている…気になっている!?と、声に出た。急いで戻ってきた彼は汗までかいていた。手に持ったお茶を飲み、あぁ、こっちりんのだったわ。お茶、買ってきた。どこ行く?わたくしは言った。ねぇえ?落ちついて。彼は言った。時間なんて早いんだよ?サクサクしてかんと、ね?サクサク。やっぱりチャラいと思った。サクサクやってサクサクいなくなるんだ。とりあえず座って話そう?そうだな、りんあれだべ?親いないべ?(何で知っているんだろう…)俺とおんなじ目をしてたから、だから声かけたんだよ。このストレート過ぎる彼に、ストレートだね。と、言った。あ、俺?ストレートも得意だね。ボクシングやってんのさ、言ってなかったっけ?ようやく間髪を入れない態度とリズムはボクシングのせいか。と、一致した。心を許し始めそれから毎日のように一緒に遊んだ。いつも"Let It Be"を口ずさむ彼に脳内をセルフ洗脳されていた。ねぇえ?私たちって友達なんだよね?と、聞くと、言ったしょ、俺の女って。出逢ってからの出来事が巻き戻されノックアウトをされた。夏も終わる頃、彼は突然、俺、大阪に行くからさ、ボクシングに女はいらない。と、言い、いなくなった。汗をかいて脱ぎ捨てた彼のシャツだけが残る部屋でわたくしは二度と"Let It Be"が聴けなくなった。

インディゴブルー

高校に入学をしたての頃、教室に隣のクラスの男子生徒が入ってきた。ブレザーの上からデニムジャケットを着た彼と目が合った。一瞬、時間が止まった。一目惚れをした。休み時間に度々わたくしのクラスにいる同じ中学校であったらしい男子生徒に会いに来ていた。その距離、斜め前の机の場所。わたくしは斜め前の机の男子生徒と次第に仲良くなり一目惚れをした彼とも少しずつ話す様になったが友達未満であった。勇気を振り絞ったわたくしは生徒手帳のアドレス帳に電話番号を書いてもらった。すると、俺にも書いて。と、胸の内ポケットから生徒手帳を出してくれた。その日の授業は上の空で帰宅後もソワソワとしていた。たかが家の電話番号を交換しただけなのにお風呂に入る時に家の電話の子機を脱衣場に置いた。自分から電話をするほどの勇気は無かった。シャンプーをしているとドア越しに電話が鳴った。慌てて出ると彼からであった。あまり話をした事が無かったので電話越しの低い声にドキドキした。
今、大丈夫?
いや、あの、お風呂に入っていて…
電話してみようかなぁ、と、思って。ラジオって聴ける?
ラジオ?
今さ、ラジオで三国志の連載がやっていて、俺、三国志が好きで聴いてもらいたいなぁ、と、思ってさ。
子機を持ったままわたくしは泡だらけの頭で身体にバスタオルを巻き部屋へ走った。ラジオをのチューナーを合わせると何頭もの馬が蹄の音を立てていた。語り手は一軍が攻めたところである。と、言った。訳が分からない。電話越しに彼は言った。ちょうど攻めに来られて殺り返しに行くところなんだよねぇ。時折、物語の説明をしてくれて、じゃあ、またね。と、言った。次の日、学校で会っても笑顔だけでなかなか話す事は無かったが夜には電話がきた。そんな毎日が続きわたくしは友達に相談をした。好きなんだけれどなんていうか友達になりたいんだけど電話はあったりしているんだけど…友達はわたくしが乙女になっている様子を初めて見たよ。と、笑った。豪快な友達は彼が休み時間にクラスに来るとりんちゃんと喋りな!と、あからさまにした。そうしてわたくし達のバンド部屋に来るようになった。
わたくしから言った。
付き合って欲しい。と。
いいよ。と、彼は言ってくれた。休み時間にクラスに来たらべったりと一緒にいて始業のチャイムが鳴ると、行くね。と、言った。まだ一緒にいたくて背中に飛び乗ったらそのままおんぶをされて隣のクラスに連れて行かれそうになった事もあった。本当に好きだった。バンド部屋にいる時、一階の大きなテーブルの上で添い寝をする。彼は右耳にわたくしは左耳にイヤホンをして。T-BOLANの離したくはないをいつも聴かせてくれた。帰りは家まで送ってもらいやっぱり駅まで送る。と、二人でいつまでも行ったり来たりを繰り返した事もある。ある日、彼は学校を休んだ。友達に聞くと、今日、乗って来なかったぞ。どうしたんだろう?あいつの事だから這ってでもりんちゃんに会いにくるはずだよな。その日一日の淋しさといったらなかった。放課後バンド部屋に寄ろうかと思ったが一人で帰った。帰ったら電話をしてみよう、うん、そうしよう。と、頭の中は彼の事でいっぱいであったその時、後ろから急に左腕を引っ張られた。びっくりとし振り返る頃にはいつものデニムジャケットの青色が目に入ったと同時に抱きしめられた。りんちゃん、会いに来たよ。彼の体は物凄く熱かった。熱あるの!?そう。家より近いバンド部屋に連れて行った。二階からはいつものメンバーの騒ぎ声がした。具合が悪いのにさもわたくしを連れて来たかの様に堂々とドアを開けた。みんなは真っ赤な顔の彼を見て、あぁ!?おまえなしたの!?と、言った。熱あって授業は流石に出れんわと思ったけどりんちゃんに会いに来た。アツいねー!と、冷やかされた。とりあえずおでこに冷たいタオルを当て寝かせた。安心をしたのか寝息が聞こえた。わたくしはみんなにこれからバイトに行くからちゃんと連れて帰ってあげてね。と、行こうとすると、俺、起きてるよ。と、彼は起き上がった。送ってくわ。寝てていいから。と、言ってもバイト先まで送ってくれた。バイト頑張ってね。うん、気をつけてね、ありがとう。次の日、友達に聞くと、あいつりんちゃんを送って戻って来た時、玄関先で倒れて連れて帰るの大変でさ、無理すんなって言ったらさ、りんちゃんが淋しがると思ってって、あいつ言ってさ、すげぇなって思ったわ。みんなからもおまえらそんなにくっついて飽きないの?と、聞かれた事があったがむしろ足りないくらいであった。本当に好きだった。抱っことチュウばかりをしていた。ずっと彼の重みの下にいた。ある日の放課後、駅前に隣のクラスの女子がいた。わたくしは珍しいな、男漁りでもしに来たのだろうな。と、思いながら彼を連れ油彩教室に行った。その後わたくしは用事があったので駅で別れた。まだ女子はいた。次の日バンド部屋で彼は言った。昨日、駅前に○○さんがいたでしょ?付き合って下さいって言われた。取られる。と、思ったわたくしはもう涙ぐんでいた。彼は言った。俺はりんちゃんと付き合っていて、りんちゃんの事が好きだからって伝えたから安心して。ね?ごめんね、心配させたね、泣かせちゃって言わなきゃ良かったね。一緒になればいつかはいなくなると思っているわたくしは淋しさでいっぱいになった。そんな日々を送りいつも一緒にいた。いつも通り放課後バンド部屋に行くといつものメンバーはいなく彼と同級生の男子だけがいた。珍しい組み合わせに何か引っかかった。同級生は言った。りん、座りな。彼の横に座ると彼は言った。俺、学校辞めるから明日からいないよ。混乱した。彼は立ち上がりわたくしの頭を撫でて、じゃあね。と、言った。同級生は言った。頑張れよ、俺がりんもらうから。軽く頷いた彼を瞬時に引き止めようとすると同級生はわたくしの腕を掴み、行くな。と、言った。それでもわたくしは二階の窓から泣きながら、行っちゃやだ!と、叫んだ。彼は笑顔で振り返り大きく手を振り走り去って行った。窓から叫んだ時、いつものデニムジャケットの青色が目に焼き付いた。いつも一緒にいた。本当に好きだった。膝から崩れ落ちて泣いているわたくしをずっと同級生は抱きついて離さなかった。ここにいろ、俺といろ。無理やり口で唇を塞がれた。あいつは明日からいないんだから。自分から初めて告白をした相手、お揃いのシャープペンシル、ネクタイの締め方が分からないと言ったら笑顔でわたくしにネクタイを締めてくれた。一緒に聴いたラジオ、作ってあげたお弁当。手を繋いで歩いた毎日、何度も呼んだ名前。雨宿り。彼の匂い、デニムジャケット。本当に好きだった。
https://youtu.be/9zdNdjF-htY

そこにいた景色

夜の街にいても孤独じゃなかった?と、聞かれ、埋める事などはできずにテールランプを見ていた。と、答えた。
友人の紹介で知り合った高校を中退した男性がいた。彼のお兄ちゃんはクラブでバーテンダーをしていたのでわたくしは顔パスでクラブに出入りをしていた。そのお兄ちゃんは彼女の家に行ったっきりでマンションはただの空き家であった。家賃がもったいないという事で彼が住む事になった。ある夜、市内で合同ビッグパーティーがあるのでわたくしは先輩を連れ夜の街にいた。結婚式場で開かれたパーティーは市内の美容室、アパレル、飲食店とそうそうたる人数の中に先輩は緊張をしかなり酔っ払っていた。というか会場全体の男女が酔っ払いパーティー終了後には廊下に何十人もの女性が座り込みそれを男性達がお持ち帰りをしていた。混沌とした会場からわたくしは先輩を連れクラブに行った。さらに酔っ払った先輩はトイレに入ったきり暫く出て来ない。ドアを叩くも声すらしない。危険に感じたわたくしは彼のお兄ちゃんにトイレの鍵を開けてもらった。先輩はただ眠っていた。トイレからなんとか連れ出しタクシーに乗った。わたくしの肩にもたれたまま眠っている先輩の金髪を間近に見ているとタクシーの運転手はバックミラー越しにこう言った。彼氏だいぶん呑んだんじゃない?えぇ、緊張をしていたみたいで、彼氏ではなくバイト先の先輩です。あえて学校の先輩だとは言わずに。マンションに到着をしたわたくしは先輩を抱え階段を昇った。脚がもつれている先輩はそのまま階段から落ちた。ようやく部屋の前まで辿り着き事情を説明し彼の部屋に泊まらせてもらう事にした。玄関から見えた布団の足元に先輩はなだれ込んだまま眠った。彼と二人で呑み直しシャワーを借りた。二人で狭い布団に入ると抱っこをしてくれた。イチャイチャとしわたくし達は足元に眠っている先輩を忘れていた。長い彼の髪の毛はわたくしの顔を包み込んだ。その冷たい毛先を感じながら朝になっていた。目が覚めた先輩は慌ただしくわたくし達を起こした。駅どっち!?ここどこ!?さっき寝たばかりのわたくし達は曖昧に指を差した。その挙げた腕がわたくしの肩を抱きまた寄り添って眠った。駅まで送ってくれるという朝の街を二人で歩いた。こんなにも長い距離を一緒に歩けるなんてそれだけでも嬉しかった。横に並ぶ彼を見て好きだと思った。それから夜の街から彼のマンションへ通った。二人でクラブにも行った。わたくしの誕生日にはお金が無いのにプレゼントをくれた。小さな箱を開けるとピンキーリングが入っていた。一緒に食べていたアイスクリームを口移しで食べた。冷たいアイスクリームはわたくしの口の中に入ると温かくなりその温められた白いクリームで彼の身体を愛撫する。いつも二人きりでいた。認めてはいけないお互いを認め合い繋ぎ合った。二度目の秋、彼は夜の街の喧騒の中に消えた。ずっと一緒には居られなかった。夜のせいで。