lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

磁石

呑み友達であった。毎晩の様に騒いでいた二十年前。仕事の都合で空白の期間はあるものの十三年前また毎晩の様に呑みに来ていた。その頃にはメンバーは変わっておりわたくしは気がつかなかったが周囲の友人達は気がついていた。友人達が酔いつぶれてもいつも最後まで二人で残って本やたわいのない哲学の話をし車を置いて帰ってゆく。翌朝そのセダンを運転しわたくしは会社へ向かう。わたくしの仕事が終わる時間に徒歩で来てくれてわたくしを家まで送り届けてくれる。そんな生活だった。夜はまた呑みに来る。わたくしが作る料理が大好きであった。わたくしが酔っ払ってパスタを作っている動画なんて撮影をされた事もあった。風邪で寝込んだ時には真っ先に来てくれた。大雪の日でも。差し入れの袋を差し出しそのまま手を振って帰って行った。袋を開けるとわたくしが好きな飲み物とヨーグルトが入っていた。家の二階まで懐中電灯を片手に肝試しをした事もあった。二人で腕を組み合い真っ暗な部屋のクローゼットを開けさせたり驚かせたり。ある日の事メールで、俺、風邪ひいちゃって行きたいけれど行けないんだよね。と、あったので何か必要な物があったら言ってね。と、言った。心配をしていたら、りんちゃんのことが好きで寝込んだ。このままだと肺炎になっちゃうよ。と、言われた。気がつかなかった。わたくしは好意を持たれているというのに全く気がつかない。自分なんかに好意を持ってくれる人などいないと思っているのと意識をしていないからである。そうなると今までの自分の振る舞いが悪かったのではないかと考えてしまう。いつもそこに悩む。わたくしも友人達も十代、二十代から親がいないので兄弟の様に過ごしてきた。行き着けのショップのオーナーに言われた事がある。りんちゃんにハマったら危険だよ。どうして?りんちゃんねぇ、素直だから。うちのお客さんだってみんなりんちゃんりんちゃんって言うでしょ?りんちゃんは聞き上手だし喋り方の物腰が柔らかいでしょ、だからみんな話しやすいんだよ、マジで。わたくしが寝たきりなのを知らなかった君は知らなくてごめん。と、何度も何度も謝った。近いうちに会いに行く。と、言われた昨夜。会わない方がいいと思う。縺れる夜などいらない。

魂の行く末

歩道が無い新千歳空港建設地の工業地帯の道路を歩いていた。遥か遠くに見える建物まで歩けば助かると。トンネルが見えてきた。果たしてトンネルを出た先に本当に建物があり辿り着けるのかも解らずに長いトンネルに足を踏み入れた。必死に歩いても出口の光は小さなままであった。振り返り過去から未来、塩基の配列の様に同じ景色。入口が大きく口を開けて迫ってくる。戻れない、追われている。絶対に振り返らない。息を切らし途方に暮れた。走馬灯が邪魔をする。何でいつもこうなんだろう。悔しさに涙を流したぎる怒りに変わった。止まるな、続けろ。歩き続け少しずつ先の光が大きくなってきた。何の為か本当に分からない。ようやくトンネルから抜け出せる。今だ、トンネルの大きな出口から放出されると熱射に目が眩み地面に倒れ込んだ。トンネル内とは違い全身に刺さる午後の太陽。水が欲しい。虚ろに頭を傾けると陽炎に取り巻かれたまま奥に目指していた建物が大きく近づいていた。安堵をしたのも束の間、先へと進む道路が無かった。背中を置いていた地面は砂埃が渦巻き全身は汚れた。目を瞑った数秒間。空気が落ちゆっくりと埃にまみれ自分の肉体なのかも感覚ができずに力無く傾いて立ち上がる。目を開けると青空が少しだけ見えるコンクリートの資材置き場の中に居た。熱を帯びた熱いコンクリート、日陰になる部分のコンクリートは硬く冷たく巨大な無機質。早く行かないと夜になってしまう。コンクリートによじ登り滑り落ち汗で額に前髪は貼り付き衣服も汗でじっとりと肌に貼り付いた。目指していた要塞に着いた時、廃墟であった。冷たい建物内に体温が一気に奪われた。湿った衣服の重み、寒い。震えながら見渡しても此処には誰も居なかった。歩いて来たのは何だったのか、幻だったのか。建物を頼らなくなったわたくしは何も無い細い道を歩き出した。大地よりも細い産道の様な道を誰かが通っているであろうと考えた。暗くなっても構わない。子宮の中だって暗くたまにぼんやりと薄明かりが差す程度であった。子どもの頃に見てきた浜は見渡せていたのにいつしかテトラポットで覆い尽くされガラス石も探せなくなっていた。人工的な作為を恨む。十月十日より早いか遅いかは分からないが必ず夜は明けるはずだ。足は縺れ全身が枯渇していた。どれくらいの道程を歩いて来たというのだ。すがる思いと何かを追い求めいた。気がつけば真っ暗闇の中を歩いていた。突然、目の前を塞がれた。行き止まりであった。立ちはだかる壁は大きく此処が何処なのかも分からずしゃがみ込んで息を潜めた。子どもの頃に聴いていた子守歌を口ずさむとそのまま前のめりに弧を描きながら闇へと堕ちて行った。
通りゃんせ通りゃんせ ここはどこの細通じゃ 天神さまの細道じゃ
ちっと通して下しゃんせ 御用のないもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに お札を納めにまいります
行きはよいよい帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ通りゃんせ
通りゃんせ 通りゃんせ ここは冥府の細道じゃ 鬼神様の細道じゃ
ちっと通して下しゃんせ 贄のないもの通しゃせぬ
この子の七つの弔いに 供養を頼みに参ります
生きはよいよい還りはこわい こわいながらも 通りゃんせ通りゃんせ
衰える我が身で闇へ向かうわたくしは子守歌の三番目の歌詞を知らない。

慕う

グラスに入れたジンロックをぼんやりと眺めていた。氷が溶け出し表面張力で保たれていた。指で表面を触って溢れ出した。同時に涙も溢れ出した。初めて出逢った時にわたくしと似ている様な気がした。初対面で二時間以上は話し込んだ。二回目にショップに行くと急遽、休みだと顔馴染みの店員に言われた。この店員がきつい言い方をしているのを初日に見ていたので紙にわたくしの電話番号を書きわたくしの誕生日がある。と、伝え紙を渡した。夜に電話があった。店員がわざわざ連絡をしていてくれた。常連客の強みである。雪が降る三月、夜遅くにショップに迎えに行き誕生日を祝ってもらった。プレゼントは本人が好きだという香り。初めてのデートはビリヤード。西一条の交差点を曲がる時に友人から電話が入った。停車をし電話に出ると友人は言った。見た事のない男を乗せてどこに行く?と。わたくしは普段から人を助手席には乗せない、ローレルに限っては。余程、大事な奴なんでないの?と、仰々しく言われた。確かに土禁の助手席を土足で乗せたのは初めてである。仕事が忙しくバイクの免許の手続きに行けない。と、言うのでわたくしは自動車学校に行き日程表を貰う為に窓口に行くと窓口の女性は本人じゃないと日程表はあげられません。と、言った。食い下がる事はなく日程表がないと仕事の調整ができないのです。と、やり取りをした。日程表一枚の為に。その後バイクの免許を取得しイタリア製のバイクに乗っていた。仕事は独立をし離れた地で開業をした。家で良ければいつでも泊まりに来な。この言葉の意味がよく分かった。メディアへの露出も多く華やいだ世界に居る君を今でも尊敬している。友情には変わりはなく。

道化師

向かいに住む義手の老人が犬を伝い散歩をする時、盗みを働くロシア人が走る。ゴミ捨て場の残飯を貪る盲目の野良犬。北側に鎮座する王子製紙の煙突。賑やかさを失った親不孝通りの寂れた呑み屋街の看板。刺青の男達が御神輿を担ぐ港祭り。小さな橋の上の銭湯。曾祖母に連れられ聞いたお坊さんの説法、数えた数珠の数。路地裏を通り抜け広がる浜、潮の匂い。ガラス石を拾い上げ港へ向かうフェリーを見つめる凪の日。36号線沿いの粉塵にまみれた歩道橋を渡り通った西小学校。下校途中に遊んだ樽前神社。恐る恐る開ける家の玄関。部屋の至る所から出て来るウイスキーの空き瓶、暴かれる現実。這いつくばりながら息を荒げ自分が産んだ子どもが居るか寝ているわたくしを確かめに来る。生き別れがいいか死に別れがいいか…と、電気を点ける顔面血だらけの母親。右目で見たトーチカの様な暗い不気味な奥の部屋から引き出される全身血まみれの母親。夕陽を浴びながら祖父母を呼ぶ為に必死に路上を走る小さなわたくし。祖父と家まで走った夕刻。革靴のまま部屋に入った祖父を止めては行けないと思った。更に出刃包丁を腹に突き立てる母を取り押さえる父と祖父。もう、駄目だと思った。祖母である母さんと手を繋ぎ歩いたナナカマド並木道。見てごらん、三日月だよ。見上げた儚く重い薄暗い空。市場が放つ野菜と果物に混じる魚の血の匂い。蔦を這わし延びてゆく朝顔。カーテン越しにこちらを見つめる隣人。新聞紙の上で息絶えた兎の亡骸。無情に廻る風車。止まったままの壁掛け時計。
苫小牧 浜町

過干渉

他人に求める時とは自分に求めている。周囲から取り残される恐怖心から。金銭や地位、そこから不安が生まれる。互いを生かし合えていないからである。明確な条件がある場合、それを満たせば付き合い、明確な基準が無い場合、何となく付き合う。価値基準が変われば別の人へ。学生から社会人になっても友達でいられるのは生活水準が同等だからという。わたくしは周囲が驚く程に人間関係を整理する。利害損得という感情を相手が持っているというだけで利用されているだけである。こちら側に愛情ではなく同情を求めているだけである。そんな人間をいつまでも同情をしている場合ではない。美しい世の中を創るのは自分である。どんな関係でも出会いは予定調和である。嫌な気分にさせられてもそれは自分を反映させてくれる。色々な物を教えてくれる人もいる。そして別れる可能性が必ず含有される。それでも一緒に居られるのは余程、懐が大きく愛情に溢れているか単なる無関心である。互いに引き寄せ合っていた日々も確かに存在していた。自分を守る為に。最初から脆弱性があった。独り立ちできると気づいた時に離れる。助けを呼ぶ前に反応をしてくれるのが友達。助けを呼んだ時には遅いのである。出会った人間は財産である。捕らわれなければ貯蓄された思いは美しい。男性は悔しい時と嬉しい時に涙を流す。女性は悲しい時と有益の為に涙を流す。男性脳と女性脳の違い。誰しもバランスを崩すがそこに居てくれるのが友達であったり恋人。見ていられない景色をも一緒に見て涙を流してくれる。居心地が悪くなると人生の時間を短く感じ始め焦る。居心地が良い人間と居るとその場では短いが人生を長く感じる。将来性があるから。疎外感とは自らが創り出す。独りで居られない人間が誰かと居ても上手くは成立しない。友人に、りんちゃんと話していると小さい事が気にならなくなる、どうでもよくなる。と、言われた。どうでもよくなるのはあまりにもだがわたくし自身どうでもよいという感情を持ち合わせている部分がある。これはパニック症を患って達した出来ないものは出来ない。自分の設定値を上げすぎていた、頭が悪いので。取り繕った人間よりも孤独は美しい。その美しさを身に纏う。何かを求め過ぎていると人の目が気になる。緩く生きる為のマイナス作業。閉ざされた扉を開けた時、重たい鎧を落とす。人の流れをゆっくりと感じながら。

ユートピア

二つの花が咲いていた。蝶が蜜を愛で舞っていた。花は木箱に入った道標を頼りに音楽とフルーツバスケットを携えてカペラを探す旅に出た。揺れ動く色鮮やかな葉っぱをすり抜け笑いあっていた。季節の匂いとイタリアの香りの中を走り回った。大きな砂時計に出逢った。立ち止まって流れ落ちる砂を見つめた。時間が止まりそうな瞬間、二つの花は砂時計を反転させた。誰かが居れば止まる事は無い砂時計。小さな二つの花は前へと進んだ。あちこちに散りばめられた綺麗なビーズを集め走り回り心の扉を開ける鍵を見つけた。跪いて足下の汚れを綺麗にしてくれたのでお返しに両手の中に光るツリーをあげた。何度か雨に当たった。寒がる君を温めた。思いは一つ。色々な物を分け与え創り上げた。歌声は響きカペラを探す旅は続いている。

夜明け

深夜、乾いたボブディランの曲を聴きながら静かに熱い涙が溢れ出した。暫くの間いなくなる。と、言われた。足早に駆けてゆく足音が人混みに消えて行った。一度だけ振り返って本当に行ってしまった。果たして行き交う人々の中で幾人が幸福なのだろうか。思い出が溢れ出した。わたくしは一人、灰色の空の下で立ち止まった。朝は太陽となり照らされ夜は迷わぬ様に月になってくれていた。遠くても毎日。あの頃、貴方はわたくしの中で宗教であった。絶対的な尊敬をしていた。連絡も取れずいつ戻るのかも分からない日々。帰省本能がある貴方が必ず戻ってくると信じていた。寂しさが押し寄せる。壁に描かれた絵画の様にいつも傍らにいてくれた。時に攻撃的な才能に惚れていた。無条件に守ってくれていた。恋という好きだという感情を知った。愛という思いやりを与えてくれた。太陽も月も見えない暗い部屋でわたくしは目を開けていた。止まった時間の中で想いは消える事は無かった。数年をかけて目を閉じるとゆっくりと足音が聞こえた。暖かな空気に変わった。あの日のままわたくしは目を開けた。そこには貴方がいた。沢山の光と導き出す星と共に戻ってきてくれた。目の前は光り輝き優しさに包み込まれた。ありがとう。