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lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

探せない時

真っ黒な空が堕ちてくる。火渡りの炎の間を裸足で歩く。おきになった炭が弾け飛び小さな火花が舞っては消える。脚の悪い女性は火渡りの途中に転んだ。修行僧達が助けに入る。勢い良く踏まれた炭は火花を増す。見ている者達の怒号。引き起こされた女性は怒られていた。女性は炎の間を歩き出す前にこう言った。脚が良くなります様に、下の息子が就職できます様に。そしてつまづいた。就職を果たした息子さんは会社でいじめに遭い自宅で首を吊った。幾つもの柱時計の針が一斉に逆回りをし出し不穏な鐘の不協和音が鳴り響く。無情にも止まらない柱時計。新築であった家はごみ屋敷へと変わる。家の前を歩くだけでも異臭がする大きな家。玄関先にまで溢れるごみの中で植木鉢に植えられていた苗木は枯れていた。その得体の知れない部屋の中で女に四六時中と腰を振るもう一人の息子。女はごみの中で妊娠した。産まれた赤子は両腕を常時回転させる難病を抱えていた。仰向けに寝かせるとコンパスが廻る様に全身を回転させていた。翌年、祖母となった脚の悪い女性は両腕を回転させる孫を抱き火渡りの炎の中へと流れた。

成長日記

テレビの中から高校野球開始のサイレンの音が聞こえた。わたくしは台所に立つ母さんの横に並んだ。すると開けっ放しの玄関からリーンリーン。と、鈴の音がした。母さんと玄関を見ると虚無僧が立っていた。深い籠を頭に被り墨黒の綿服を纏い立っていた。初めて見たわたくしは驚き咄嗟に母さんの背後に隠れた。こちらからは顔が見えない虚無僧は何かを唱えた。母さんは驚きもせずエプロンのポケットからがま口を出し小銭をあげた。虚無僧はまた何かを唱え二度ほど頭を下げて出て行った。茶の間に戻ろうとすると玄関先に黒い影が走った。来た!来た!来た!慌てて玄関を閉める。浜町はどこからともなくロシア人が現れ手当たり次第に物が盗まれる。その為ロスケと呼んでいた。夏でも涼しいからかロシア人は盗んだであろう真っ黒な汚れた外套に汚れたハットを被り壊れかけの古い自転車で向かいのゴミ捨て場を漁りに来ていた。こっそりと見ていると割れた植木鉢を手に取り自転車の籠に入れ走り去って行った。ホームベーカリーという名の移動パン屋のメロディーが聞こえてくる。母さんと道路に出ると賑やかに練り歩くチンドン屋に邪魔をされた。パンを買ってもらうと今度は祭の鼓笛隊が道路を塞ぐ。管楽器の音に大太鼓やシンバルその後に先導の笛を鳴らしながら派手な御神輿が迫ってくる。喧騒が去った後、叔父さんが犬の散歩をしていると前方からいちゃもんをつけながら歩いてくる幻覚の元シャブ中。掴み合いになった時、飼い犬は飼い主を守る為に元シャブ中の首筋めがけて噛みついた。叔父さんは返り血を浴びて帰宅した。両親が営む食堂に真っ黒な長い髪を振り乱した知らない女が物凄い形相で冷蔵庫まで走り寄りいきなり冷蔵庫のドアを開け瓶ビールの栓を歯でこじ開け飲み干した。驚いたお客の悲鳴とそのまま何人かは食い逃げをした永福町。祖父の会社の朝鮮人の職人は恐喝事件を起こし逮捕をされた。引き取りに行く祖父はハットを被り、あの野郎。と、出て行く。帰りはお鮨のお土産を買って帰ってきてくれた。別の職人は腹に亀甲の刺青を入れられ名古屋へ逃げた。女物のつっかけを履いてタイムカードを押す職人は前夜に殴られ目が充血をしていた。母はウイスキーの呑みたさから二階の窓を開けそのまま落ちた。浜に打ち上がった巨大な鯨の横に死んだ猫の片手だけが出ている砂場のお墓。流れ着いた女性の溺死体。漁師が説明をするも漁師言葉で伝わらない。祖父の顎に怪我を負わせた猿は麻酔銃で撃たれた。この一滴で象でも倒れます。猿は胸に刺さった麻酔の矢を引っこ抜き投げつけ更に暴れ出した。躾が厳しく悪さばかりをしてきた母。母の弟は苫小牧の暴走族の総長であった過去。当時アウディで盛大に事故を起こす。わたくしは近所に住む曾祖母の家のカナリアを眺める。下校途中に摘んだハコベを二羽のセキセイにあげる。散歩中の犬の鎖を離してしまい追いかける。ヨウムが喋る昔話に耳を傾ける。池の鯉やランチュウに餌をあげキリギリスの鳴き声を聞く。母さんと焼き魚の骨を取り夕食のお膳を持って祖父が居る離れへと運ぶ。鈴が鳴ると注文を取りに行く。肘掛けに腕を置き煙管をくゆらせる祖父。祖父がお風呂へ向かうと祖父の布団を敷き枕元には水差しを置く。そうして一日が終わる。母さんは正座をしたままわたくしが寝るまでうちわで扇ぎ続ける。そして早朝から独身の職人達のお昼のお弁当を作る。母さんと曾祖母が営む食堂に祖父が通っており母さんと祖父は結婚をした。わたくしの両親も調理師である。わたくしの両親が結婚をする際に祖父は愛人である小料理屋の女将さんを紹介した。曾祖父は余所に娘さんが居たという。太く短く生きるのか細く長くなのか。その前に好きに生きれば良い。と、学んだ。

流転の彩り

色とりどりの七夕飾り、五色の短冊がカラカラと音を立て風になびく。擦れ合う笹の葉の音は神を呼ぶ。振り返って見上げる星への願い事。織り姫の裁縫の儀式。子ども浴衣の目に残る帯の現代的なピンク色。昼食の薬味の葱が香る。色付きの素麺ばかりをすくう。風鈴の音が揺れている。せわしなく引っ掛けた下駄の鼻緒で足の指が痛むと訴える。色彩だらけのマーブル模様の水風船が寄り集まり浮かんでいる。金魚すくい、朱い金魚に混じる黒い金魚の優雅な尾。歪む水面に映るおはじきのささやかに捻られたガラス緋と翠。裸電球のオレンジ色の光りに揺れる吊された乳白色の綿飴のビニール袋とザラメの温風の甘い匂い。おままごとのプラスチックでできた人工的な色を放つ野菜や果物。横にはどぎつく照る林檎飴が並ぶ。大人にはなりたくはなかった。好きな色をどうぞ、スーパーボールの球体が大小様々と盛られている。テキ屋の威勢のよい掛け声に現実だと耳を塞ぐ。スマートボールが弾け流れる台と球の木の音。魅力のない射的の景品。お化け屋敷の轆轤首と口裂け女の不気味な看板、小屋の中から聞こえる民衆の金切り声。甘さや香ばしさが入り混じる混沌とした空間を抜けると浴衣に纏わりつく匂い。人波に逆らい家路を歩く。涼しい部屋でべと付く綿飴を食べる。指に絡みつく金色の細工の憂鬱。一年に一度しか巡り会わない彦星は浴衣の帯の解き方を忘れている。堪えきれずに浴衣の裾を捲り上げる。折り重なり紡ぎ出す糸。なびく織物。ざわめく七夕飾りと折り紙の下に遠き日を想い幾度となく重なり合う五色の糸。指。一晩中、絡み合う。目を閉じ流れる涙は大きく広がり天の川になる。声にも出さずに微笑む。総ての擦れ合う音が静かに止まる。涙のかけらを握りしめる。また出逢えると信じて。愛する程に。

磁石

呑み友達であった。毎晩の様に騒いでいた二十年前。仕事の都合で空白の期間はあるものの十三年前また毎晩の様に呑みに来ていた。その頃にはメンバーは変わっておりわたくしは気がつかなかったが周囲の友人達は気がついていた。友人達が酔いつぶれてもいつも最後まで二人で残って本やたわいのない哲学の話をし車を置いて帰ってゆく。翌朝そのセダンを運転しわたくしは会社へ向かう。わたくしの仕事が終わる時間に徒歩で来てくれてわたくしを家まで送り届けてくれる。そんな生活だった。夜はまた呑みに来る。わたくしが作る料理が大好きであった。わたくしが酔っ払ってパスタを作っている動画なんて撮影をされた事もあった。風邪で寝込んだ時には真っ先に来てくれた。大雪の日でも。差し入れの袋を差し出しそのまま手を振って帰って行った。袋を開けるとわたくしが好きな飲み物とヨーグルトが入っていた。家の二階まで懐中電灯を片手に肝試しをした事もあった。二人で腕を組み合い真っ暗な部屋のクローゼットを開けさせたり驚かせたり。ある日の事メールで、俺、風邪ひいちゃって行きたいけれど行けないんだよね。と、あったので何か必要な物があったら言ってね。と、言った。心配をしていたら、りんちゃんのことが好きで寝込んだ。このままだと肺炎になっちゃうよ。と、言われた。気がつかなかった。わたくしは好意を持たれているというのに全く気がつかない。自分なんかに好意を持ってくれる人などいないと思っているのと意識をしていないからである。そうなると今までの自分の振る舞いが悪かったのではないかと考えてしまう。いつもそこに悩む。わたくしも友人達も十代、二十代から親がいないので兄弟の様に過ごしてきた。行き着けのショップのオーナーに言われた事がある。りんちゃんにハマったら危険だよ。どうして?りんちゃんねぇ、素直だから。うちのお客さんだってみんなりんちゃんりんちゃんって言うでしょ?りんちゃんは聞き上手だし喋り方の物腰が柔らかいでしょ、だからみんな話しやすいんだよ、マジで。わたくしが寝たきりなのを知らなかった君は知らなくてごめん。と、何度も何度も謝った。近いうちに会いに行く。と、言われた昨夜。会わない方がいいと思う。縺れる夜などいらない。

魂の行く末

歩道が無い新千歳空港建設地の工業地帯の道路を歩いていた。遥か遠くに見える建物まで歩けば助かると。トンネルが見えてきた。果たしてトンネルを出た先に本当に建物があり辿り着けるのかも解らずに長いトンネルに足を踏み入れた。必死に歩いても出口の光は小さなままであった。振り返り過去から未来、塩基の配列の様に同じ景色。入口が大きく口を開けて迫ってくる。戻れない、追われている。絶対に振り返らない。息を切らし途方に暮れた。走馬灯が邪魔をする。何でいつもこうなんだろう。悔しさに涙を流したぎる怒りに変わった。止まるな、続けろ。歩き続け少しずつ先の光が大きくなってきた。何の為か本当に分からない。ようやくトンネルから抜け出せる。今だ、トンネルの大きな出口から放出されると熱射に目が眩み地面に倒れ込んだ。トンネル内とは違い全身に刺さる午後の太陽。水が欲しい。虚ろに頭を傾けると陽炎に取り巻かれたまま奥に目指していた建物が大きく近づいていた。安堵をしたのも束の間、先へと進む道路が無かった。背中を置いていた地面は砂埃が渦巻き全身は汚れた。目を瞑った数秒間。空気が落ちゆっくりと埃にまみれ自分の肉体なのかも感覚ができずに力無く傾いて立ち上がる。目を開けると青空が少しだけ見えるコンクリートの資材置き場の中に居た。熱を帯びた熱いコンクリート、日陰になる部分のコンクリートは硬く冷たく巨大な無機質。早く行かないと夜になってしまう。コンクリートによじ登り滑り落ち汗で額に前髪は貼り付き衣服も汗でじっとりと肌に貼り付いた。目指していた要塞に着いた時、廃墟であった。冷たい建物内に体温が一気に奪われた。湿った衣服の重み、寒い。震えながら見渡しても此処には誰も居なかった。歩いて来たのは何だったのか、幻だったのか。建物を頼らなくなったわたくしは何も無い細い道を歩き出した。大地よりも細い産道の様な道を誰かが通っているであろうと考えた。暗くなっても構わない。子宮の中だって暗くたまにぼんやりと薄明かりが差す程度であった。子どもの頃に見てきた浜は見渡せていたのにいつしかテトラポットで覆い尽くされガラス石も探せなくなっていた。人工的な作為を恨む。十月十日より早いか遅いかは分からないが必ず夜は明けるはずだ。足は縺れ全身が枯渇していた。どれくらいの道程を歩いて来たというのだ。すがる思いと何かを追い求めいた。気がつけば真っ暗闇の中を歩いていた。突然、目の前を塞がれた。行き止まりであった。立ちはだかる壁は大きく此処が何処なのかも分からずしゃがみ込んで息を潜めた。子どもの頃に聴いていた子守歌を口ずさむとそのまま前のめりに弧を描きながら闇へと堕ちて行った。
通りゃんせ通りゃんせ ここはどこの細通じゃ 天神さまの細道じゃ
ちっと通して下しゃんせ 御用のないもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに お札を納めにまいります
行きはよいよい帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ通りゃんせ
通りゃんせ 通りゃんせ ここは冥府の細道じゃ 鬼神様の細道じゃ
ちっと通して下しゃんせ 贄のないもの通しゃせぬ
この子の七つの弔いに 供養を頼みに参ります
生きはよいよい還りはこわい こわいながらも 通りゃんせ通りゃんせ
衰える我が身で闇へ向かうわたくしは子守歌の三番目の歌詞を知らない。

慕う

グラスに入れたジンロックをぼんやりと眺めていた。氷が溶け出し表面張力で保たれていた。指で表面を触って溢れ出した。同時に涙も溢れ出した。初めて出逢った時にわたくしと似ている様な気がした。初対面で二時間以上は話し込んだ。二回目にショップに行くと急遽、休みだと顔馴染みの店員に言われた。この店員がきつい言い方をしているのを初日に見ていたので紙にわたくしの電話番号を書きわたくしの誕生日がある。と、伝え紙を渡した。夜に電話があった。店員がわざわざ連絡をしていてくれた。常連客の強みである。雪が降る三月、夜遅くにショップに迎えに行き誕生日を祝ってもらった。プレゼントは本人が好きだという香り。初めてのデートはビリヤード。西一条の交差点を曲がる時に友人から電話が入った。停車をし電話に出ると友人は言った。見た事のない男を乗せてどこに行く?と。わたくしは普段から人を助手席には乗せない、ローレルに限っては。余程、大事な奴なんでないの?と、仰々しく言われた。確かに土禁の助手席を土足で乗せたのは初めてである。仕事が忙しくバイクの免許の手続きに行けない。と、言うのでわたくしは自動車学校に行き日程表を貰う為に窓口に行くと窓口の女性は本人じゃないと日程表はあげられません。と、言った。食い下がる事はなく日程表がないと仕事の調整ができないのです。と、やり取りをした。日程表一枚の為に。その後バイクの免許を取得しイタリア製のバイクに乗っていた。仕事は独立をし離れた地で開業をした。家で良ければいつでも泊まりに来な。この言葉の意味がよく分かった。メディアへの露出も多く華やいだ世界に居る君を今でも尊敬している。友情には変わりはなく。

道化師

向かいに住む義手の老人が犬を伝い散歩をする時、盗みを働くロシア人が走る。ゴミ捨て場の残飯を貪る盲目の野良犬。北側に鎮座する王子製紙の煙突。賑やかさを失った親不孝通りの寂れた呑み屋街の看板。刺青の男達が御神輿を担ぐ港祭り。小さな橋の上の銭湯。曾祖母に連れられ聞いたお坊さんの説法、数えた数珠の数。路地裏を通り抜け広がる浜、潮の匂い。ガラス石を拾い上げ港へ向かうフェリーを見つめる凪の日。36号線沿いの粉塵にまみれ歩道橋を渡り通った西小学校。下校途中に遊んだ樽前神社。恐る恐る開ける家の玄関。部屋の至る所から出て来るウィスキーの空き瓶、暴かれる現実。這いつくばりながら息を荒げ自分が産んだ子どもが居るか寝ているわたくしを確かめに来る。生き別れがいいか死に別れがいいか…と、電気を点ける顔面血だらけの母親。右目で見たトーチカの様な暗い不気味な奥の部屋から引き出される全身血まみれの母親。夕陽を浴びながら祖父母を呼ぶ為に必死に路上を走る小さなわたくし。祖父と家まで走った夕刻。革靴のまま部屋に入った祖父を止めては行けないと思った。更に出刃包丁を腹に突き立てる母を取り押さえる父と祖父。もう、駄目だと思った。祖母である母さんと手を繋ぎ歩いたナナカマド並木道。見てごらん、三日月だよ。見上げた儚く重い薄暗い空。市場が放つ野菜と果物に混じる魚の血の匂い。蔦を這わし延びてゆく朝顔。カーテン越しにこちらを見つめる隣人。新聞紙の上で息絶えた兎の亡骸。無情に廻る風車。止まったままの壁掛け時計。
苫小牧 浜町