lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

成長日記

テレビの中から高校野球開始のサイレンの音が聞こえた。わたくしは台所に立つ母さんの横に並んだ。すると開けっ放しの玄関からリーンリーン。と、鈴の音がした。母さんと玄関を見ると虚無僧が立っていた。深い籠を頭に被り墨黒の綿服を纏い立っていた。初めて見たわたくしは驚き咄嗟に母さんの背後に隠れた。こちらからは顔が見えない虚無僧は何かを唱えた。母さんは驚きもせずエプロンのポケットからがま口を出し小銭をあげた。虚無僧はまた何かを唱え二度ほど頭を下げて出て行った。茶の間に戻ろうとすると玄関先に黒い影が走った。来た!来た!来た!慌てて玄関を閉める。浜町はどこからともなくロシア人が現れ手当たり次第に物が盗まれる。その為ロスケと呼んでいた。夏でも涼しいからかロシア人は盗んだであろう真っ黒な汚れた外套に汚れたハットを被り壊れかけの古い自転車で向かいのゴミ捨て場を漁りに来ていた。こっそりと見ていると割れた植木鉢を手に取り自転車の籠に入れ走り去って行った。ホームベーカリーという名の移動パン屋のメロディーが聞こえてくる。母さんと道路に出ると賑やかに練り歩くチンドン屋に邪魔をされた。パンを買ってもらうと今度は祭の鼓笛隊が道路を塞ぐ。管楽器の音に大太鼓やシンバルその後に先導の笛を鳴らしながら派手な御神輿が迫ってくる。喧騒が去った後、叔父さんが犬の散歩をしていると前方からいちゃもんをつけながら歩いてくる幻覚の元シャブ中。掴み合いになった時、飼い犬は飼い主を守る為に元シャブ中の首筋めがけて噛みついた。叔父さんは返り血を浴びて帰宅した。両親が営む食堂に真っ黒な長い髪を振り乱した知らない女が物凄い形相で冷蔵庫まで走り寄りいきなり冷蔵庫のドアを開け瓶ビールの栓を歯でこじ開け飲み干した。驚いたお客の悲鳴とそのまま何人かは食い逃げをした永福町。祖父の会社の朝鮮人の職人は恐喝事件を起こし逮捕をされた。引き取りに行く祖父はハットを被り、あの野郎。と、出て行く。帰りはお鮨のお土産を買って帰ってきてくれた。別の職人は腹に亀甲の刺青を入れられ名古屋へ逃げた。女物のつっかけを履いてタイムカードを押す職人は前夜に殴られ目が充血をしていた。母はウイスキーの呑みたさから二階の窓を開けそのまま落ちた。浜に打ち上がった巨大な鯨の横に死んだ猫の片手だけが出ている砂場のお墓。流れ着いた女性の溺死体。漁師が説明をするも漁師言葉で伝わらない。祖父の顎に怪我を負わせた猿は麻酔銃で撃たれた。この一滴で象でも倒れます。猿は胸に刺さった麻酔の矢を引っこ抜き投げつけ更に暴れ出した。躾が厳しく悪さばかりをしてきた母。母の弟は苫小牧の暴走族の総長であった過去。当時アウディで盛大に事故を起こす。わたくしは近所に住む曾祖母の家のカナリアを眺める。下校途中に摘んだハコベを二羽のセキセイにあげる。散歩中の犬の鎖を離してしまい追いかける。ヨウムが喋る昔話に耳を傾ける。池の鯉やランチュウに餌をあげキリギリスの鳴き声を聞く。母さんと焼き魚の骨を取り夕食のお膳を持って祖父が居る離れへと運ぶ。鈴が鳴ると注文を取りに行く。肘掛けに腕を置き煙管をくゆらせる祖父。祖父がお風呂へ向かうと祖父の布団を敷き枕元には水差しを置く。そうして一日が終わる。母さんは正座をしたままわたくしが寝るまでうちわで扇ぎ続ける。そして早朝から独身の職人達のお昼のお弁当を作る。母さんと曾祖母が営む食堂に祖父が通っており母さんと祖父は結婚をした。わたくしの両親も調理師である。わたくしの両親が結婚をする際に祖父は愛人である小料理屋の女将さんを紹介した。曾祖父は余所に娘さんが居たという。太く短く生きるのか細く長くなのか。その前に好きに生きれば良い。と、学んだ。