lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

空間

綺麗なままで死にたいの。彼女は僕にそう言った。彼女の口から死という言葉を聞いて僕は動揺をした。誰にも止められない頃の彼女は太く短く進んで行った。それは誰も追いつけない程に。今の彼女は違うと思っていた。ただ静かに、細くとも永く息をしているのだと思っているからである。むしろ生きたいと常日頃から言っている彼女の遺言を聞いた気がしてその言葉で彼女が突然、居なくなった気がした。駄目な自分の空虚感に支配をされ涙が溢れ出した。色んな物を削ぎ落として来た彼女にはまだまだ心の内部に込み上げる悔しさが残っているのを知っている。と、同時にたぎり出す熱量は誰にも追いつけない速度があるから。今まで通り過ぎて行った男性を何人も知っている。今はひとりで居る彼女も知っている。夕方には必ず同じ道で家に帰る伝書鳩の様な真面目さも知っているのにその言葉の真意を持っている彼女を僕は今まで気がつかなかった。いや、分かっていた。触れたくはなかった。僕の曖昧さが露呈をする。何故ならば楽しそうに時に恥ずかしそうにはにかむ彼女と同じ様な空間の中に居ても無駄な事を言わない様に緊張をする。彼女からすると些細な事で。君の優しさ。一緒に過ごす彼女は別れ際いつも何かを言い残しているのは分かっていた。僕はあえて次に会える日を待っていた。彼女の事だから突然、居なくなる。それでも彼女は僕に会いに来る。必ず会いに来る。僕は待っている。ずっと待っている。言いにくそうにも僕にだけ打ち明ける声。頼られるのを僕は待っている。彼女の総てを飲み込んであげたい。彼女は枯れるまで捧げる人だから。枯れる前に僕が浸透をすると決めたのだから。見送る彼女の後ろ姿を見て嗚咽をしながら崩れ落ちた。彼女の今までを塗り替えてあげたい。僕は無力だが君を支えたい。やせ細った君の腕を掴む。浮き出た骨。痛がる躰を優しくさする。

綺麗なままで死にたいの。

何を思っている?と、僕は問いかけた。
君は言った。

わたくしと居て恥をかかせたくはないから。