lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

彼方

ただ美しい世界。極彩色よりも柔らかな色彩が広がる大地。光の眩しさや湿度すら感じない無風にどこから途もなく音が聞こえてくる。人間の死後、最後まで生きている器官の耳。体温を失い初めて見渡した新しい世界は天国であった。生前一緒だった人達すらそこには居ない。産まれゆく時も一人、死ぬ時も一人。地上で枯渇し生きてきたわたくしは水が流れる音ですら五線譜上の旋律に聞こえていたが此処にはまるで速度が無い。遥か前に暗い小宇宙という羊水の中で浮遊をしていた。時間が無い、突然、明るい世界に放たれた時、其処は地獄であった。時折、苦味を帯びた羊水の中とは違った試練。音は騒がしく壮大に広がる景色。誰の為に生きるのか。自分の為の筈が人の為に生きてゆく。忘却から一転、振り返ると速度がある世界から解放され一人ユートピアに来た。此処で生きる。欲望も無く時も分からない。輪廻転生の時間になれば又、人の声が聞こえてくるであろう。