lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

友人からのレスポンス

バートリ・エルジェーベトの末裔

<私を閉じ込め殺して。>

ある者がそう発した。死は慣れている。心臓を抉り死体を運んだ。死そのものに慣れているはずだった。
だが、その言葉を発した事が激しい後悔を生んでいた。相手が悪かったのだ。

陰鬱雲に覆われ辛うじて見える日食。日食が放つ神々しさと禍々しさが同居する光、それを装飾する幾多の蝋燭の灯りが、赤黒く変色した石棺の上に立つ女の裸体を照らす。裸体の彼女はこの城の主だ。城内は彼女の世界、彼女が国であり、法であり、神であり、悪魔である。脇に控える表情が無い従者もまた裸体だ。彼女の指示に逆らう事は死を意味する。従者は恐怖と命令に従う事を生きる代償としていた。

彼女はワイングラスに注がれた赤黒く生暖かい液体を嗅ぎ味わうのは鮮血だ。少し飲み、残りを透き通る白い肌の裸体に少しずつ流し垂らす。くちから漏れ出した赤い液体は首に流れ胸を経由し股から石棺に垂れた。石棺に付着した血液には別の粘度が加えられていた。赤く染まる彼女から漂う鉄の甘美なの香り。性的欲求とほぼ変わらない衝動が彼女を突き動かす。丁寧に研がれたナイフが、か細い手に握られている。蝋燭の灯りがナイフを鈍く光らせる。血で赤茶けた石棺の祭壇には、連れされられてきた哀れな処女が猿轡を施され拘束されていた。

ワインと鮮血を混ぜた酒を、彼女はブラッドムーンと呼んでいた。儀式の開始と共に飲み始め、被害者に手にかける頃には既に酩酊状態になっていた。血液への渇望と性的な欲求は、飲酒により深くなっていた。
儀式の際には必ず流れる曲がある。ベートーヴェンの月光第3楽章。曲が終わる頃には恍惚な表情を浮かべ、目は虚ろで口元からは唾液が流れいる。理性は彼方に消え、血と性を欲する獣と化していた。体に流れていた血液は既に乾いていたが、股から滴る粘液はその量を増やし糸を引き垂れていた。

鈍く光るナイフが哀れな被害者の猿轡を切り裂くと同時に、助けを呼ぶとも恐怖によるものともよる絶叫が祭壇に響き渡る。彼女が被害者にナイフを突き立てる際の曲には、ドメニコ・スラルラッティのk1が流れる。研がれたナイフは力を入れずとも、被害者の体に突き刺さり、皮膚と肉を引き裂く。被害者は激痛による絶叫が再び祭壇に響き渡る。獣と化した彼女には、獲物を仕留めた歓喜の声に過ぎない。絶叫の声量がやがて小さくなり、体の動きも鈍くなり無実の被害者は絶命する。彼女は流れ出た鮮血を両手で掬い顔に塗りたくった。赤く染まる彼女の顔には笑みがこぼれていた。

絶命した彼女の腕を切り落とすよう従者に指示した。切断された腕と指が運ばれ、主の前に差し出される。
切断した指で自分の性器に刺激を与え始めた。血と性に酔う。神であり悪魔である彼女のみに許された行為。
最初の絶頂を迎えた獣は、欠片の理性を取り戻し、青黒く冷たい視線で獲物を見つめる。

<私を閉じ込め殺して。>

その望みを叶えてやろう。獣はつぶやく。
胸を開いた鉄の処女は血に飢えた聖母マリア。胸の内には光の無い錆ついた幾多の針。

トジコメテコロシテ。
自らの願いを拒絶する。眼前の獣を呪った。だが願いは物理には勝てない。拘束された身体は既に我が身ではなく他者の所有物に成り果てていた。血を内包する木偶に過ぎなかった。

獣は既に黒い司祭へと変貌していた。ソロモン72柱序列12番偉大なる君主シトリーへの供物として、かの者を捧げる事を宣告し手を振り下ろす。その合図を機に従者が、かの者を鉄の処女に押し込め、その胸を閉じた。幾多の針がかの物を突き刺す。歓喜にすら感じる悲鳴と共に、流れ出した血液は石棺に溜まる。
悲鳴が静まり、流血の勢いも無くなる。黒い司祭が再び手を振り下ろすと、鉄の処女の胸が開けられた。針の支えが無くなり倒れ込む。血を抜き取られたそれは、単なる肉塊に成り下がっていた。黒い司祭はその「物」を一瞥する事も無く、次の獲物の処理を指示した。複数の若い処女の木偶により石棺に血が満たされる。

全裸の黒い司祭は、石棺に貯められた血液に浸かり、潜り、飲み、性器を掻き毟る程に強く自慰をしながらシトリーへの愛を説いた。その姿は、城の主、獣、司祭、そのどれでも無く、辛うじて人の形を保っている欲望が具現化した何かだった。

Some of them want to use you
Some of them want to get used by you
Some of them want to abuse you
Some of them want to be abused

Sweet Dreams。甘美な夢は未だ終わらず。