lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

風車

壊れた蓄音機。彼女が起きてくる前にどうにかしようと考える。僕が蓄音機の分解をしていたらいきなり後ろから彼女が抱きついてきた。まだ寝ぼけている彼女はレコード盤を抱いていた。毎日、僕が蓄音機を廻す。寝かしつける時には僕が子守唄を唄う。トントンして、がお決まり。蓄音機の調子が悪いんだ、もう少し待ってね。後ろから抱きついたままの彼女は作業中の僕に滑り込みお姫様抱っこ。と、言う。あのね?いい事を思いついたよ?彼女の目は何かを企みながらキラキラとしていた。何だと思う?僕には皆目見当がつかないが彼女の閃きにはいつも驚かされる。彼女は僕に抱っこをされながら外に行こ!と、言った。僕はずっと座ったまま蓄音機を弄っていたので彼女が重く感じたが何かを始める前の彼女の目が楽しみであった。庭に出ると木の枝の一番高い所を指差した。僕は彼女を肩車した。彼女は枝にレコード盤を引っ掛けた。
風がそよぐ。ゆっくりと廻り出すレコード盤。新緑の木の葉が針になる。ボサノヴァが流れ出す。僕らの風見鶏が笑顔になる。音に委ね一緒にハンモックに揺られていると風が止まった。彼女の機嫌を損ねない様に僕は木によじ登りレコード盤を廻す。彼女は満足をしている。僕が居ない時に彼女が木に登ったらどうしよう。僕はまた心配事が増えた。