lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

あの夜だけは

濃い霧の中で名前を呼んだ。何処に居るのかも分からずに追い掛けた。当てもなく名前を叫び続けた。僕は微かに君の声が聞こえた様な気がして咄嗟に振り返った。何も見えない暗闇から君が迷い込んでいる気がして僕は君を探した。必死に走った。立ち止まり息を潜め僕は耳を澄ます。遥か遠くに確実に君が居る。無力さに耳を塞ぎ倒れ込んだ。君の声を掻き消そうと泣き叫んだ。離れるなと言ったのは僕の方だ。地面に拳を突き立て立ち上がる。想い出が深まる。僕の目の前で好きだと泣き出した過去。電話口で泣き叫んだ朝。いつも僕を頼っていた。激しい雨が降り出す。君の涙。雨音が君の声を掻き消す。早く探さないと僕の前から消えて居なくなる。足音も聞こえない暗闇は雷鳴に変わり、突然、目の前に君が現れた。探し歩き泣き崩れる君をしっかりと抱いた。濡れ冷えた君を温め続けた。泣き続ける君の両耳を塞ぎ眼を見る。額を当てると僕は感電をした。僕が居ない世界で君は笑顔だった。君の頬を伝う涙に触れながら君の名前を呼んだ。僕の身体はゆっくりと地面に叩きつけられ君が好きなショパンの革命が流れた。