lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

巡る

僕と会えない時間、君は一人、雛菊を集めていた。光が当たらない様に大切に宝石箱の中に集めていた。僕は一人、声を赤い糸で刺繍をしながら君を待つ。時折、時計の下にあるラッピングをされたままのウイスキーボトルを見つめ微笑む。君が隠れんぼをしながら持っていたボトル、僕へのプレゼント。ラッピングをされたリボンは青。僕の色。僕は何処にも行かない。ただ、君の帰りを待つ。冒険家の君は何処にいるのかも判らない。低い枝にレコード盤を引っ掛け下から大きな葉で今頃、風を送り音を待っているのか高い木によじ登り風を待っているのか。たった一人、僕らの風見鳥を連れて行かなかった。君の笑い声を縫い付けていると急に糸は切れた。僕は外へと飛び出した。乱気流。空は灰色になった。君が迷い込んでいる。僕の背中からは君を守る羽が生え肩羽が覆い出した。激しいスコールに雨覆羽が羽音を立てる。雷鳴に怖がる君を思い出す。孤独の涙を一人、雨に流していた記憶。風切羽が伸び飾羽を広げ大きく羽ばたいた。乱気流の中、君の風を探す。懐中時計を進める。帆船を探し君は僕の船の帆布を目指し沢山の気球の間から降り立った。貝殻の中の汗ばんだ君の笑顔。必死だった。羽ばたく程に左羽根のブラスの環が音を立てる。金属音に怖がる君に届ける。貝殻の中には居ないと思った。僕は確信した。閉じた花の中に居ると。草原を目指す。草原脇に雛菊の群れがあった。僕は降り立つ、早春から咲いていたであろう白い雛菊に。
閉じた花びらの中からは震えるブラスの音が微かに聞こえた。花びらを掻き分けると大きな旅鞄の横に小さな君が居た。僕は君を雨覆羽で覆う。君が宝石箱を開けると雛菊は開き出した。