lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

ハイブリッド

鳥籠の中で人魚の彼女は一つ、卵を産んだ。彼女は愛おしく卵を腕の中で温めていた。堅いその有精卵は孵化をする気配はなく寧ろ日に肥大をし黒点が滲み始めた。ケンタウロスの僕はその殻に向け弓で矢を射った。ひび割れ砕けた卵の中からは充満した硫黄の臭い。混血の奇形の双生児。彼女は恐怖に血の涙を流し叫んだ。僕はその双生児の醜態さに愛情は感じなかった。むしろ怒りに震えた。僕らの子どもは美しいと幻想を抱いていた。肥大は単なる死後の膨張に過ぎなかった。その醜い奇形を見ていると彼女との幸せな時間を奪われたと思った。彼女はずっと幸せそうに待っていた。
僕は悔しさに涙を流し何度も溢れ出す涙を拭い僕らの子どもを見た。異変に気がついた狼がやって来た。狼は僕らを見つめ割れた殻の中の異物を鼻先で探り眉間に皺を寄せ彼女に寄り添った。そして静かに僕を見つめた。狼のその眼孔に映った怒りに満ちた炎。半人半獣で彼女の目を塞ぐ間もなく僕は蹄で奇形の双生児を踏みつぶしにかかり狼が尻尾で彼女の両目を覆った。音が聞こえない彼女の前で踏みつぶす。
許せないんだ。彼女の笑顔を奪う存在は。