lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

エビデンス

強く繋ぎ合っていた手が離れた瞬間、幸せであった日々は忘却の彼方へと堕ちる。いつも触れ合っていたどちらかの冷たい毛先の感触は更に冷たく髪の毛に記憶が宿る。もう横には居ない。風の音、シーツが擦れる音、身体がぶつかり合う音、声。何も聞こえない。愛されていた時間は錯覚であったのか。強く抱きしめられていた感覚は確かに肌に残り心を締めつけられる。見つめていた眼差しは記憶の中で濁る。愛の中に居た映像は夕刻から夜に滑り落ちる色へと変わり停止する。愛される自信を失う。自分とは違う体温の指先が絡まる事を思うだけで哀しみが押し寄せる。記憶が宿った冷たい髪の毛を掻き毟る。ゆっくりと膝から崩れ落ちる。冷たい地面に爪を立てる。ずっと掴んでいた肩はそこには無い。愛される資格さえも与えさせてもくれない。まだ一緒に居たかった。抱き合ったまま堕ちれば良かった。一緒に居た時間は放たれた。また一人になった。