lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

翼の行方

夕方、隣に住むはとこのお姉ちゃんが慌てて玄関のドアを開け入って来た。庭の木の下に何だか分からない鳥の雛が落ちている。たまたまいた祖父に、おじちゃん見に来てと。祖父と庭の木の下を見た。赤びっきの皮膚が丸出しな鳥がいた。祖父はゆっくりと手の中に収め温めた。木の上を見上げると鳥の巣があった。孵化をしたばかりの鳥は何らかの理由で地上へ落ちた。祖父は近くの鳥獣店に行き擂り餌を買った。灰色の擂り餌を練り細いストローの先端を斜めに切った。その擂り餌をストローの先に乗せ赤びっきの口へと入れると冷たい体で勢いよく吸い始めた。羽根が無いと求める事しか出来ない鳥は必死に求めていた。羽毛が生えた頃には嘴の端が黄色くなっていた。それでも飛び方を知らない鳥はいつまでも餌を求めていた。擂り餌から千切った食パンに蜂蜜を浸した食事を採る頃には立派な羽根を纏っていた。雨の日の土曜日、温室から鳥は羽ばたいて行ってしまった。雨の中、何度も名前を呼んだ。雨に濡れながら見上げる空。一緒にいた成長の記憶が走馬灯の様に駆け巡り脳内を羽ばたいた。籠の中よりも自然を選んだ赤びっきであった鳥。茶の間に戻り濡れた身体で小さな温もりがいない喪失感を知った。温室のガラスに降りしきる雨の流れと音を聴いていた。温室の前に置かれたバードテーブルに目をやると小さな体の雨覆いで雨を弾きながらこちらを見ている鳥がいた。ずっとこちらを見ていた。外に出て行き大雨の下で何度も何度も名前を呼んだが飛び立って行った。数日後、バードテーブルに戻って来た鳥は温室に一度だけ入り毎日バードテーブルの上で餌を食べていた。ガラス越しに見る君と私。毎日、林檎と好きな餌をあげる時間になるとどこからともなく飛び下りてくる鳥。他の鳥に混ざり変わらない啄み方で懸命に生きる小さな命。せつない鳴き声をあげて空へと羽ばたいた鳥は地上にゆっくりと光る肩羽を落とした。翼が無い私は木の下に立っていた。羽根が生えるのを待ちながら。