lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

戯れ

貝殻の中で目を覚ますと横に君は居なかった。慌てて飛び出すと君は居た。陽射しの下で微笑み空を指差した。見上げると鯨が泳いでいた。僕は君に駆け寄り、空が堕ちてきたら危ない。と、言った。君は目から硝子石を流した。僕が悪かった。機嫌直しの隠れんぼ。君がいつも隠れ僕が探す。僕は目を閉じ君の声を待つ。風が攫う波の音の合間から隠れた君が合図を届ける。僕は知っている。君はいつもうっすらとピンク色がかった貝殻に隠れる。濃い色の渦が巻く洞窟が怖いのであろう。探してもらえない時の不安感を知っている。居場所が分かっている僕は分からないふりをし君の高揚感を誘う。貝殻の横を素知らぬふりをし通り過ぎる。入り口から溢れ出す君の花の香り。渦の奥に丸まって隠れている君の蒸れた香り。今頃、君は笑顔になっている。空を泳ぐ鯨が遠く小さな黒点になったのを見届け僕は君を迎えに行く。貝殻によじ登り中を覗くと恥ずかしそうに見つけてくれた笑顔で汗ばむ君を手繰り寄せる。細い腕で僕の肩にしっかりと掴まり喜ぶ。汗ばんだ君を、洗い流すよ、いいね?僕は君を背負い熱射の砂浜を歩く、君をあやしながら。首筋に君の寝息を確認し僕は打ち寄せる波に足を運ぶ。徐々に深くなる海に君を連れて歩く。背中に背負った君の足が波に浚われるも君は目覚めない。僕は君を抱きかかえ深海に嵌まってゆく。浮遊しない様に胸一杯に海水を飲み込む。水の中で揺られる君の髪を梳く。君は僕の指先を思い出し目を覚ました。探していたのは君の方だった。閉塞された海の中で君は僕の唇をこじ開け酸素を噴いた。バブルリングの記憶。炭酸水が噴き上がる記憶。僕は深海の貝殻を指差す。閉ざす君の心をこじ開ける。二枚舌の脱け殻を見つけ僕は君を閉じ込める。