lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

湿度

熱帯雨林で姿の見えない猿を探した。僕が目を覚ますと懐中時計が無くなっていた。床には小さな猿の足跡が残っていた。彼女がくれた懐中時計。二人で宝探しに行った難破船から見つけた。綺麗な首飾りは僕からのプレゼント。その首飾りも無くなっていた。探している物音に彼女が目を覚ましてしまった。僕は彼女を抱きかかえ絵本を開いた。飛び出す絵本からピンク色の象が立ち上がった。頁から動き始めた象は笑顔、鼻で彼女をくすぐり優しく包み込み背中へ乗せた。僕は象にコインを渡し遊園地へ連れて行ってあげて。と、言うと彼女を乗せ耳を揺らし彼女は嬉しそうに大きく手を振った。
僕は熱帯雨林で姿の見えない猿を探した。猿からはこちらが見えているのか嘲笑う鳴き声が空に響き渡った。ざわめく大きな葉音で聴力が弱い僕は定まらない。傍若無人に頭上を飛び回る姿が見えない猿に地上の僕は尻尾を垂らした。空が曇りだし灰色となった。近付いてくる雷鳴。静かに上がってゆくボルテージに激しくスコールが降り注いだ。濡れた僕の真っ黒な体毛は怒りに逆立った。体温を上昇させ呼吸に共鳴し幾度ともなく逆立てた。雨が音を遮るも一瞬、蒸れた獣の匂いがした。嗅覚を辿り目先に潜んでいるが見えない。
熱帯雨林に夜が来る。不気味に揺れ動く大きな葉音の隙間から月の灯りが差す。暗闇に夜行の朱い目が光り僕の懐中時計と彼女の首飾りをした猿を捉えた。僕は月に遠吠えオッドアイの目で怒りを剥き出しに狙った。

嬉しそうにゼンマイを巻き僕に懐中時計をくれた。進まないその時計は巻き戻す事しか出来ない。歩みを進めてはいつもいつも戻る。それでもいい。と、言った彼女の笑顔のスローモーションが僕の想い出を、彼女の笑顔を奪った猿を許さない。飛びかかる月夜。吠え互いに飛び込み狙った首筋。小さな猿を食いちぎろうとした刹那、僕は猿の爪に目を傷付けられた。一瞬だった。
目の前が血で視界を奪われた。
取り返せなかった懐中時計と首飾り。
君はピンク色の象と遊園地に居るの?
盲目の僕が必ず迎えに行くから。君の香りが染み着いているから。
離れられないんだ。どうしても。