lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

後の祭り

見世物小屋の紙芝居に静かに緞帳が上がる。真っ赤に黒ずむ林檎飴が裸電球に溶解され延びる爪。木箱の中で着色料に汚染されたひよこがひしめき合い羽ばたきを見せつける風に羽毛の粘つきと擂り餌の生臭さが漂い咽せる。ひしめき合う金魚の流れを見つめていると子どもの頃の記憶に混み合い酔う。卒倒しそうな感情に遠くから静かに雪駄の飾り具の音が近付く。間近で止まった足音にゆっくりと見上げる。濃い灰色の絣を纏った男の顔は狐の面であった。下目使いの狐の匂いが好きだと瞬時に嗅ぎ分けたわたくしは狐に付いて行った。真っ暗闇の河川敷を。遠退く祭りの喧騒。少し冷えた草の匂い。そして暗闇の中で急に押し倒された。狐の帯が解かれる音、犯されると思った瞬間、帯が首に素早く巻き付けられ締め上げられる同時刻、河川敷に凄まじい花火が上がり視界の明るさが見えた。フラッシュをする煌びやかな情景の中で無表情の狐の面を苦し紛れに剥ぎ取ると真っ白なのっぺらぼうであった。わたくしは延びた出す爪でのっぺらぼうの肌を傷付ける。何度も何度も。声も呼吸も聞こえない。溢れ出すのは橙色の血液。思い出した。狐はカナリアだったのだと。貪る骨の味。頸椎を噛む音に美しいカナリアの声を思い出した。何となく。