兄さんと共通の友人A氏という方が居る。彼は一時期わたくしに好意を持ってくれたのだが気に食わなかった兄さんは無視を決め込んでいた。困ったA氏は他の友人達に相談をし兄さんは電話に出る事を了承した。りんのすけが断薬で大変な時にたぶらかすなと。他の友人達にもあいつがたぶらかすから、りんのすけ、俺にスピーカーを買ってくれるって言ったのにその話も無くなった。と珍しく愚痴る兄さんに友人が慰めにスピーカーをプレゼントした事があった。釣りミーティングにA氏が遠方から参加をした際、皆の前で兄さんが真っ先にA氏を蹴り飛ばしたという。状況が掴めない釣り仲間達に兄さんが一言、りんのすけは！俺の女だったんだぞ！こいつのせいだ！兄さんとは職場が二度も同じで二度目は同時期に辞めた。喧嘩もしたが仲が良くこの十年以上は楽しかった。兄さんの開業祝いにわたくしが車を購入社用車にしスペアキーを渡した。そしてわたくしのメルセは兄さんのお下がりである。膝枕をしてもらいながらチェッカーズのDVDを観たり朝まで二人きりでマッカランを呑んだ夜。いつも、いつだって可愛がってくれた。ふた月ぐらいそういう仲であった日々もある。A氏からの連絡に驚いたがそんな気がしていた。兄さんは釣りに行き倒れているところを発見されたらしい。別の方からの連絡では死亡解剖中だとか。一昨日、亡くなりわたくしがメッセージを送信していたが返事は無かった。不思議と悲しみは無いが、最後まで馬鹿な男だったよ、寒かったろうに。お互いに惚れていた時間が懐かしい。香典は出さないよ、わたくしに借金があるのだからね。兄さんのバブアーとわたくしのバブアー、同じく七十年代の物。これとフィルソンのジャケットもリプルーフしてあげ、両手が塞がっているわたくしに煙草を吸わせてくれたっけな。先月電話ですったもんだをし、家に行く。と言われたがわたくしは、来なくていい！と言った。これが最期の声だった。五年前、わたくしがパニック症のリハビリに一人で出掛け始め行きつけのショップで新たに友人ができた。それを見ていた兄さんがある時こう言った事がある。
りんのすけが遠く離れて行きそうで心配なんだよ？そういう事を言う人ではなくわたくしの前では素直だった。りんのすけにしか言えないと。あれだけ兄貴肌の兄さんが。知り合ってどれぐらい経ったのかなぁ。と年数を電卓で叩いた。表示された二桁の数字に時が止まった。
兄さんのお誕生日だった。
遠く離れたのは兄さんだよ。もう会えないじゃんね、逝ってしまって。
