lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

good-bye

ゴッホの街並みに居る夜、狼の遠吠えの合図が響き渡り暗転が起こった。振り返ると野に放たれた野犬が一斉にわたくしの首筋を狙い奪い去ろうとした。君はわたくしを抱え込み吠え続ける。しっかりと繋がれた手を離す事は無く威嚇をしながら君はウイスキーボトルのキャップを牙でこじ開け火を野犬の群れに放った。青く燃え上がる炎。野犬の眼は赤く焼け燃え尽きるまでわたくし達を最期まで睨んだ。最期の青い炎を君は飲み込んだ。
今は霞んだ印象派の世界に居る。モネの池の上で花びらが零れゆっくりと左回転に浮かぶ。スラヴァのマリアが美しい無情を届ける。捻り合う過去。静かに絹に二人で刺繍をすると片耳のカナリアは飛び立った。声を亡くした君の横髪を耳にかけ囁く。口話で君に聞こえる?と、囁くと君は微笑む。一針一針を感情として残しあの日の様に手を伸ばし繋ぎ合う。切り取る一瞬の幸せ。灰色に静止をし出した君はひび割れてゆく。掴みきれない。君が野に放ったウイスキーボトルには鍵がぶら下げられていた。投げ出した心の扉を開ける鍵が。

私が君を壊した。

救いの手

電話帳から消えたわたくしの名前。今でも電話番号を覚えていると言った。二十年もの間、他の女に唄った事は無いと言う歌を電話越しに唄ってくれた。その声は変わらずも歌声は切なかった。一番だけだよ?と、言う君に、もっと唄ってと駄々をこねた。当時のままに。途切れ途切れに一緒に唄い涙ぐむ。「大好きだった」の過去形は「大好きに」変わる。「愛していた」の言葉は「愛している」に戻る。冷たい身体は熱を帯びる。どの女よりも一番、好きだった。愛されていた。分かっていた。それなのに風向きが変わって振り返らずにしゃがみ込んだ。アスファルトに涙を落とし幾つもの想いの染みを数えた。君が居ない世界で立ち上がりゆっくりと歩き出す。一人じゃ歩けなくて道端に倒れ込む。身体を丸め産まれた時の事を考える。冷たい地面に君の匂いは無い。カウントダウンに舞い降りる愛。ミレニアムキスを交わした車内。ずっと一緒だよ?近くて遠い日の記憶。
君の肩に入ったタトゥー。花言葉を知っている?

離れゆく愛なんだよ。

https://youtu.be/3Rjnrt1ypvQ

置き去りにしたのは君の方だよ。

友人からのアンサー

「得手不得手」

喉の痛みで目が覚めた。速攻鎮痛剤を飲んだけど、すっかり目が覚めた。
とは言っても、頭がすっきりしているわけではないから、文章を書いて脳のストレッチをしてみる。

僕には、30年来の友人がいる。その友人の彼女は誌的な表現を得意としている。
特に彼女は暗喩が得意、または好きだとの事だ。
彼女の表現する詩的な文章は僕には書けない。
それを、僕に書けというのだ。これはひどい

彼女の得意とする表現方法を辞典的にまとめてみよう。

【比喩:ひゆ】
ある物事を、類似または関係する他の物事を借りて表現すること。
比喩も暗喩も内包する概念。

【暗喩:あんゆ:metaphor】
「彼は鬼のような男だ」が明喩であるのに対して、暗喩では比喩であることを外形的に示す言葉 (「ように」) を用いず、「彼は鬼だ」と表現する。慣用的表現や欧米の詩では明喩よりも多く見受けられる。イメージの喚起力において勝るためである。

【直喩:ちょくゆ:Simile】
一つの事物を直接に他の事物にたとえること。「柳のように美しい眉」「静かなること林の如し」のように「たとえば」「ごとし」「ようだ」などとはっきりと比喩であることを示した言い方。

なるほど、彼女に詩的な表現が出来て、僕に出来ないのは才能という点もあるだろうが、「そもそもの問題」がある。
僕は、暗喩も直喩も内包する「比喩」という表現を記述する事が苦手だ。

「ある物事を、類似または関係する他の物事を借りて表現すること」という表現方法に、まどろっこしさを感じ、その能力・精度・練度が圧倒的に低いため、「他の物事を借りて表現すること」が出来ない。

詩的彼女の表現する「僕の涙でいっぱいのガラス瓶の中から声を無くした君は気泡で問いかける。僕の涙を飲み干し君の涙でいっぱいにする。」という文章。僕には、この様に表現する事が出来ない。

僕が表現すると、かなりの失笑物で、そもそも何を言っているのか分からないものになるのは明確だ。
試しに、やってみよう。

「僕の涙を見る彼女。聾唖の彼女は声にならない声で僕に問いかける。僕には、その声は届いても、その意味は届かない。その不甲斐なさに僕は涙を流し、それでも必死に涙をこらえようとする。それを見て、彼女もまた涙を流した。彼女の僕に対する憐れみなのか、同情なのか、つられ涙なのか、その真意は二人にも分からない」

やはりそうだ。僕には比喩という表現は出来ない。
そもそも書いていて、何を言いたいのか自分でも分からない。

僕が割と表現しやすいのは直接的なシチュエーションを記述する事だ。
それは文学的・芸術的な表現とは異なる。文学的・芸術的な表現は読む側にも想像力を要求する。

読み解く力、才能が低いため、文学的・芸術的な表現が書けない。僕はそう思う。
僕の文章はシチュエーションの構築であり、構造的であり、分析的なのだと思う。
うむ。学者向きかも。まぁ、そんな能力もないのだけど。

僕と詩的彼女は「文章が好き」という点では共通している。
でも、面白い例を見つけた。僕が好きな表現と、詩的彼女が好きな表現。

いやそもそも、興味対象それ自体が異なるという点が明確になる表現例。
おそらく詩的彼女には、欠片の価値も見いだせない文章例。

ではサンプルで書いてみよう。

「おはよう」これは何ともない日常の挨拶だ。だが、これが「大問題」に発展する。
僕にとっては、非常に面白い問題になる。

人間同士で「おはよう」というのは、挨拶のいち形式だ。特段それ以上の意味はない。
だが、人は、その意味は理解しているし、それを使う適切なタイミングを理解している。
つまり「おはよう」の効能を「理解し、知っている」という事になる。

では、「オウム」の場合はどうだろうか。
発話のイントネーションは若干変な感じはするが、「おはよう」と発話する事が出来るし、適切なタイミングでも使う事が出来る。
では、オウムは「『おはよう』を理解出来ているのか?」

基本的に、動物は人間の言語を使う事が出来ないとされている。
オウムの場合、発話・タイミング共に「おはよう」を使う事が出来る。

「知っている、理解出来ている」という定義には外れない。
つまり、動物と人間のコミュニケーションが出来ている間接的な証拠でもある。
逆に、理解しているという事を「否定する事」が出来ないという事になる。

この様に詩的彼女と、僕とでは同じ「言葉」でも、興味の全く方向性が違う。
詩的彼女にとって「オウムのおはよう問題」は、全く興味も無く、どうでもいい話だと思う。

やろうとしたら、上記の問題は、ソシュール言語学や、構造主義の各学者の学説や、ヴィトゲンシュタイン言語ゲームや、シュレーディンガーの猫とか、小難しい話に関連付け、発展させる事も出来る。

どうだい?全く興味が無いだろう?というか、むしろウザいだろ?

僕に比喩を書けという、詩的彼女の要望。おそらく、それには応えられない。
ある一定のシチュエーションを書け、という要望であればなんとか応えられると思う。

僕にオーダーを出す際には突拍子もない事でもいいから、シチューションを要望してくれたまえ。
殺人でも、自殺でも、エロでも、ジャンルは何でもいい。
何せ、直喩も暗喩も内包する比喩は表現出来ないから。

最後に詩的な君に、ある本を紹介しよう。学術書じゃないから読みやすいよ。
目の調子が良い時に読むといいよ。面白いから。
もし読むのがキツイなら、あの○○君に解説してもらうといいよ。

『運と気まぐれに支配される人たち』ラ・ロシュフコー箴言集(角川文庫)

友人からのレスポンス

打ち寄せる貴方の優しさにわたくしは溺れる。時に浚われ激しく愛される。
僕は君を奪い去る。
三日月が滲む。二人で居た部屋は焼け落ちる。望みを諦め迷い裸の君を抱く。求める時間を抱え込む。愛しすぎる。堪らなく君を愛している。

そう表現した彼女は、僕の友人でもあり、詩人のセミプロでもある。
詩で金稼ぎをしていないから「プロ」というのは間違いか…。

僕も彼女も文系ではあるものの、方向性が全く異なる。
僕には詩的な表現は創作出来ないし、彼女の表現の意味を読み取る事が出来ない。
一般に「文系」と一括りにされがちだが、全く別物だ。
音楽で例えるなら、クラシック、ジャズ、ロック、メタル…全て「音楽」だが、ジャンルはまるで異なる。これと同じ話。

芸術的で詩的な文章を創作出来る彼女は、クラシックの優雅さやジャズの即興性を兼ね備えた才女だ。
才能は認めるが、特段嫉妬は無い。僕とジャンルが違いすぎるからだ。
僕はというと…いわゆる四つ打ちと言われる単純明快なメタルだ。
スピーディーであり攻撃性を兼ね備えて、好き嫌いは分かれるジャンルではあるが非常に分かりやすい。

今日は雨だ。部屋に居ても寒い。年末に会社を辞めて既に半年。
ダラダラと過ごしつつ、たまに経営やマーケティングの勉強をする。
だけど、今日は何もする気が起きない。早速、手元にある眠剤と安定剤に手を出す。
禁煙をきっかけに、安定剤・眠剤を摂取量が増えたし、昼間から服用する様にもなった。

薬による「精神の平静」と言えば聞こえがいいが、薬で麻痺させているだけの話だ。
アルコールか薬物か、その差でしかない。つまり、昼間っから酒を飲んでるのと同じだ。
安定剤・眠剤は、ダウナー系の薬だと思う。無知なので正確な定義は知らないから、ジャンキーに間違いを指摘させるかもしれないが、少なくともアッパー系ではないと思う。
それに薬物依存と言われれば否定はしないが、正直禁煙の方が禁断症状が大きい。
自分でも、いわゆる「まとも」ではないとは思うが、リスカ等の自傷行為は無い。
痛いの嫌いだし、毎月の検診で採血をしているので、これ以上、血を流すと貧血を起こしそうだ。

ジャンクモードになって、メタルや、メタルの派生ジャンルをひたすら聞いてたら、あっという間に夜になっている。そんな日が少なからずある。ダウナー系の薬があって、適度な食い物、水分、住む場所があれば、特段働くという事に意味を見出す事が出来ない。それに現状、金にも困ってないし困らない。

今日もまた、通常の10倍程度の眠剤を服用している。僕はずる賢い。その程度の量では死なない事を知っている。そもそも眠剤だけで死のうとしたら、箱単位の量が必要だ。

ジャンキーの僕と、断薬詩人の彼女。性格は正反対なのに、もう30年近くの付き合いになる。
性格は正反対に見えて、実は近いかもしれない。僕は覚えていないが、若い頃は良く喧嘩をしたそうだ。今にして思うと、同族嫌悪が原因かもしれない。

正直言って彼女は波乱に満ちた人生だったと思う。
だからこそ今の伴侶と上手くいって欲しいと思う。

酩酊状態になって早2時間。
シンフォニックデスメタルという、おそらく詩人の彼女は知らないであろう音楽を聴きながら、そんな事を思った。好きではない人には、ただの死ぬほどうるさいノイズでしかない音楽だけど、好きな人には堪らない攻撃性と美しさの音楽に上機嫌になり、また眠剤に手が伸びる。

僕が薬を飲む理由。自身の事を考えるのが出来なくなるようにするため。快楽ではない。
それは僕が消えるため。僕は、他人にも、自分自身にも興味が無いのだ。

僕はコミュニケーション障害だ。
人との距離感が分からない。自分自身との距離感が分からない。
だから、愛、という事も分からない。
だから、詩人の彼女が言う、愛というもの分からない。

友人をリセットする僕が、何故、彼女と30年近く友人を続く事が出来ている?
僕と詩人の彼女は正反対だと思うのに、僕には分からない。

僕は誰だ?
薬とメタルがあれば、僕はいなくなる。余計な問題が無くなる。世界が無くなる。
爆音を聴きながら街を歩くと、人はいるが他者存在が無くなるのと同じだ。

僕も世界も、なくていいのだ。そこには虚無がある。論理矛盾だが。
その矛盾にこそ安息が有りそうだ。

…心地よく音楽を聴いていたはずなのに、酷い頭痛で目が覚めた。
そこは病院で、聞くと集中治療室から一般病棟に移された後だった。
記憶は無いが、どうやら大量に薬を飲んで、マンションから飛び降りたらしい。

詩人の彼女が病室にやってきた。
何も言わず憐れんだ目で僕を見ていた。いや、明らかに分かる形で見下していた。
やるなら完遂すればよかったのに。詩人の彼女は、そうつぶやいて病室を後にした。

体中に痛みが走っていたが、それは反論する理由にはならなかった。
そう。完遂しなければならなかったのだ。

詩人の彼女が、病室に来たのは勘違いかもしれないし、病気による記憶混乱かもしれない。
ただし、彼女が言った事は同意出来る。

「自分の好きな音楽は、他人が好きとは限らない。むしろ趣味が合わない方が多い。
 生き方、存在の仕方も、同様だ。ただし今回の指摘は、君と同意だ」

退院後、この2行を詩人の彼女の携帯に送信した。

共依存

打ち寄せる貴方の優しさにわたくしは溺れる。時に浚われ激しく愛される。
僕は君を奪い去る。
三日月が滲む。二人で居た部屋は焼け落ちる。望みを諦め迷い裸の君を抱く。求める時間を抱え込む。愛しすぎる。堪らなく君を愛している。

背負う

沼に浮かび上がる死体。体には願いが縫われているリボンが巻き付けられていた。私は小屋に死体を運んだ。リボンをゆっくりと解くと言葉は空中分解された。首には見覚えのある鍵がぶら下げられていた。鍵をなぞる。遥か昔、私が示した鍵。君の心の扉を開けると約束をした。私はその鍵で君の心臓をえぐった。死体は目を覚まし私に微笑んだ。ホルマリンに浸けられた鋏を取り出し君に手渡すと私の想いを切り取った。鳥籠から巣立って行った記憶。私にしか開けられない扉。閉ざされた心のまま私の言葉を体に巻き込み沈んだ。見失った君を探していた、雨の中。掴んでいた肩はそこには無く膝から崩れ落ち地面を掴んだ。悔しさに髪をかき毟りながら名前を叫んだ。何度も何度も。
森の狼は私と君は同じ目をしている。と、言った。退廃的で孤独に色を憑ける。
君と絹糸を紡ぐ。描き汚れた部分を鋏で裁断する。私はラウンドナイフで切り離す。
次は君の番だよ。

私を閉じ込め殺して。

これだけでいい。

水中花

僕は君を閉じ込めた。
僕の涙でいっぱいのガラス瓶の中から声を無くした君は気泡で問いかける。僕の涙を飲み干し君の涙でいっぱいにする。僕はいつも外側からガラス瓶をコツコツと叩き音を届け応える。気泡が溢れ出す前に君を持ち歩く。君と一緒に居た。硝子を突き破り僕に会いに来た記憶。左指で創ったピストルをこめかみに突き立てる。右手で君を太陽へかざす。レンズとなったガラス瓶は僕の両目に強烈な閃光を浴びせた。咄嗟に握り締めたガラス瓶は割れた。砕け散った日に溺れた僕は視力を失った。
君が僕を閉じ込めた。


ショートフィルム

花びらを一枚、口に含むと、頭の中の映写機が廻り出す。そっと目を閉じ夢を見る。石鹸箱の中で花を描くと香りが弾ける。同じ香りを身に纏う君と僕。指先から互いの肌に想いを綴る。。石鹸箱の中は花びらが舞い君は僕に花びらを口移す。目を閉じ僕は夢を見る。逆転写された君は僕と大きな砂時計を反転する。お伽の国で君は小さなビーズを集めていた。僕への道標。君を閉じ込めていたはずのガラス瓶。君が手にしていたリヴォルヴァーはショットガンに変わっていた。君は何度も僕を撃ち抜いた。銃口から放たれた見覚えのある花びらを口に含むんだ。
僕は夢を見る。