lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

友人からのレスポンス

打ち寄せる貴方の優しさにわたくしは溺れる。時に浚われ激しく愛される。
僕は君を奪い去る。
三日月が滲む。二人で居た部屋は焼け落ちる。望みを諦め迷い裸の君を抱く。求める時間を抱え込む。愛しすぎる。堪らなく君を愛している。

そう表現した彼女は、僕の友人でもあり、詩人のセミプロでもある。
詩で金稼ぎをしていないから「プロ」というのは間違いか…。

僕も彼女も文系ではあるものの、方向性が全く異なる。
僕には詩的な表現は創作出来ないし、彼女の表現の意味を読み取る事が出来ない。
一般に「文系」と一括りにされがちだが、全く別物だ。
音楽で例えるなら、クラシック、ジャズ、ロック、メタル…全て「音楽」だが、ジャンルはまるで異なる。これと同じ話。

芸術的で詩的な文章を創作出来る彼女は、クラシックの優雅さやジャズの即興性を兼ね備えた才女だ。
才能は認めるが、特段嫉妬は無い。僕とジャンルが違いすぎるからだ。
僕はというと…いわゆる四つ打ちと言われる単純明快なメタルだ。
スピーディーであり攻撃性を兼ね備えて、好き嫌いは分かれるジャンルではあるが非常に分かりやすい。

今日は雨だ。部屋に居ても寒い。年末に会社を辞めて既に半年。
ダラダラと過ごしつつ、たまに経営やマーケティングの勉強をする。
だけど、今日は何もする気が起きない。早速、手元にある眠剤と安定剤に手を出す。
禁煙をきっかけに、安定剤・眠剤を摂取量が増えたし、昼間から服用する様にもなった。

薬による「精神の平静」と言えば聞こえがいいが、薬で麻痺させているだけの話だ。
アルコールか薬物か、その差でしかない。つまり、昼間っから酒を飲んでるのと同じだ。
安定剤・眠剤は、ダウナー系の薬だと思う。無知なので正確な定義は知らないから、ジャンキーに間違いを指摘させるかもしれないが、少なくともアッパー系ではないと思う。
それに薬物依存と言われれば否定はしないが、正直禁煙の方が禁断症状が大きい。
自分でも、いわゆる「まとも」ではないとは思うが、リスカ等の自傷行為は無い。
痛いの嫌いだし、毎月の検診で採血をしているので、これ以上、血を流すと貧血を起こしそうだ。

ジャンクモードになって、メタルや、メタルの派生ジャンルをひたすら聞いてたら、あっという間に夜になっている。そんな日が少なからずある。ダウナー系の薬があって、適度な食い物、水分、住む場所があれば、特段働くという事に意味を見出す事が出来ない。それに現状、金にも困ってないし困らない。

今日もまた、通常の10倍程度の眠剤を服用している。僕はずる賢い。その程度の量では死なない事を知っている。そもそも眠剤だけで死のうとしたら、箱単位の量が必要だ。

ジャンキーの僕と、断薬詩人の彼女。性格は正反対なのに、もう30年近くの付き合いになる。
性格は正反対に見えて、実は近いかもしれない。僕は覚えていないが、若い頃は良く喧嘩をしたそうだ。今にして思うと、同族嫌悪が原因かもしれない。

正直言って彼女は波乱に満ちた人生だったと思う。
だからこそ今の伴侶と上手くいって欲しいと思う。

酩酊状態になって早2時間。
シンフォニックデスメタルという、おそらく詩人の彼女は知らないであろう音楽を聴きながら、そんな事を思った。好きではない人には、ただの死ぬほどうるさいノイズでしかない音楽だけど、好きな人には堪らない攻撃性と美しさの音楽に上機嫌になり、また眠剤に手が伸びる。

僕が薬を飲む理由。自身の事を考えるのが出来なくなるようにするため。快楽ではない。
それは僕が消えるため。僕は、他人にも、自分自身にも興味が無いのだ。

僕はコミュニケーション障害だ。
人との距離感が分からない。自分自身との距離感が分からない。
だから、愛、という事も分からない。
だから、詩人の彼女が言う、愛というもの分からない。

友人をリセットする僕が、何故、彼女と30年近く友人を続く事が出来ている?
僕と詩人の彼女は正反対だと思うのに、僕には分からない。

僕は誰だ?
薬とメタルがあれば、僕はいなくなる。余計な問題が無くなる。世界が無くなる。
爆音を聴きながら街を歩くと、人はいるが他者存在が無くなるのと同じだ。

僕も世界も、なくていいのだ。そこには虚無がある。論理矛盾だが。
その矛盾にこそ安息が有りそうだ。

…心地よく音楽を聴いていたはずなのに、酷い頭痛で目が覚めた。
そこは病院で、聞くと集中治療室から一般病棟に移された後だった。
記憶は無いが、どうやら大量に薬を飲んで、マンションから飛び降りたらしい。

詩人の彼女が病室にやってきた。
何も言わず憐れんだ目で僕を見ていた。いや、明らかに分かる形で見下していた。
やるなら完遂すればよかったのに。詩人の彼女は、そうつぶやいて病室を後にした。

体中に痛みが走っていたが、それは反論する理由にはならなかった。
そう。完遂しなければならなかったのだ。

詩人の彼女が、病室に来たのは勘違いかもしれないし、病気による記憶混乱かもしれない。
ただし、彼女が言った事は同意出来る。

「自分の好きな音楽は、他人が好きとは限らない。むしろ趣味が合わない方が多い。
 生き方、存在の仕方も、同様だ。ただし今回の指摘は、君と同意だ」

退院後、この2行を詩人の彼女の携帯に送信した。