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lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

滑り込む夜

能動的にわたくしを床に座らせた男性は背後から膝立ちでわたくしの顎を上げた。逆さまになった顔を近づけわたくしの口の中に煙草の煙を入れた。夜道を歩いていた時に呑み屋から出てきた男性に声をかけられた。無視をし通り過ぎたがもう一度、声をかけながら千鳥足で近づいて来た。どこ行くの?父のお見舞いの時のカメラのSDカードを買いに。じゃあさぁ、終わったらまたここに来て、俺、待っているから。買い物からの帰り道、そこに行くと地べたに座り込みながら本当に待っていた。酔っているだけではなく目が悪いという男性は両手でわたくしの両頬を包み、顔見せて。と、笑顔で顔を近づけてきた。男性は呑み屋で貰った伝票の裏に電話番号を書いてくれた。次の日の夜に電話をしてみた。酔っていて覚えてはいないと思いながら。電話をすると名前も覚えていてくれた。明後日の夜に一緒にどこかに行こう。と、お誘いを受けた。職場の近くからの夜景が綺麗だからそこに連れて行ってあげる。街灯も無い道をヘッドライトの灯りだけで進んだ。この間、俺さぁ、眼鏡していなかったでしょ?今日は眼鏡をしているからバッチリ顔が見えるからね。こうやってたまに一緒にどこかに行かない?嫌だったらいいけれど。ううん、いいよ。男性は笑顔になった。思えば初めて会った時、この笑顔に安心感があったのだ。夜になると度々あちこちに連れて行ってくれた。峠を越えて夜の湖に行った。男性もわたくしも湖が好きだという理由から。真っ暗闇の中、手を繋ぎ湖の辺を歩いた。腰を下ろしわたくしの背後から抱きながら静かに湖の音を聞いていた。寒くない?うん。わたくしの肩に顔を置きながら男性は言った。好きだよ。えっ?と、振り返ると同時に唇が重なった。受動的に両耳を手で塞がれていたので絡まる舌の音が大きく聞こえた。展望台へ行くとひっそりとした空気に包まれていた。男性は展望台の太い柵にわたくしを腰掛けさせるとわたくしの両脚を持ったまま激しく舌を絡めてきた。帰り道の車内ではずっと手を握っていてくれた。時折、煙草を吸う為に手を離すとわたくしは男性の腰に手を回し抱きついていた。約束をされる将来像というものは無かった。この男性とはある理由から疎遠になった。