lynnosukeのブログ

愛なんてそこじゃなくて生きてるだけじゃ足りなくて

2017-01-01から1年間の記事一覧

肉体の風化

進化の毒性。空中で撃ち抜かれた鳥の風切り羽根が幾重にも頭上に降り注がれた。先人達は破壊と創造を繰り返してきた。あてもなく走り出し吐息を奮わせ両手を広げ飛び込んだ世界。進化をしてゆくのには必ず傷を背負う事を約束される。カフカは言った。地上的…

浮遊

着色された砕片が回りだし記憶を辿る。触れた皮膚の感触と骨格を思い出す。男女のオートクチュール。肉の重みを知った時、大人になる。それが当たり前になった時、産まれた時の事を考える。快楽を失う。原子の海に投げ出されシナプスが泳ぎ回る。苦味を帯び…

空高く

手から細く長い糸がすり抜けた瞬間、空を見上げた。目眩がした。太陽の光が眩しく瞬きの間に風船はどこかへ消えていた。大切にしていたのに。 どうして風船って手から離れてしまうのだろう。 子どもの頃には気がつかなかった。身体のどこかに絡めておかない…

止まない雨

窓を叩きつける激しい雨音。殴られているかの様な凄まじい雷音。子どものわたくしは一人で布団に潜り母の帰りを待っていた。涙を流しながら待っていた。あの日の夜もそうであった。連日の大雨は勢いを増し屋根の真上から響く雷鳴に一人で心細かった。町内の…

可視光線

出逢ったその日、黒曜石を手にした貴方は美しかった。石に水をかけ虹色の表面を見せてくれた。不規則にゆっくりと流れ落ちる水の雫は光り輝きゼリー状の硝子体は揺れた。不思議な空間であった。初対面で肩が触れ合うほどに真横に立ち体温を感じていた。遥か…

50の音

愛していると言われた 嫌な気分になったのにもかかわらず 迂闊にも一緒になった えんじ色のセダンに乗っていた 男 勝手すぎて 嫌いになるのにも早かった 苦しむのが早く 結婚歴があり 子どもが一人いた さっさと終わって欲しいと思った 仕方がなく一緒にいた…

傷痕

皮膚にわたくしの名を刻んだ君の人生を狂わせてしまったと未だに後悔をしている。消える事がない貼り付いた名前とそこにはいないわたくしと共に生きる事を選んでくれた。鼓動に合わせ脈動する名前。生きている限り血はたぎるその皮膚の上に存在しているわた…

エビデンス

強く繋ぎ合っていた手が離れた瞬間、幸せであった日々は忘却の彼方へと堕ちる。いつも触れ合っていたどちらかの冷たい毛先の感触は更に冷たく髪の毛に記憶が宿る。もう横には居ない。風の音、シーツが擦れる音、身体がぶつかり合う音、声。何も聞こえない。…

1997年 夏

金髪が揺れていた。信号待ちで車のエンジンが止まった。アメ車にはよくある話である。アロハシャツにブルーのサングラスをしていた君と一緒に車を押した。汗だくになって車を押す君の横顔は美しくステアリングを切るシャツの袖から伸びる腕は筋肉の筋が浮き…

ショートホープ

結婚願望が無いわたくしが唯一、結婚をしたいと思った男性がいた。わたくしが十八歳の時から三年間、一緒に居た方である。日曜日以外は少しの時間でも会い電話は毎日あった。初めて左ハンドルのメルセデスを運転したのもこの方のである。560SEL。十歳上であ…

痛み

死にたいのではない、むしろ生きていたいのだ。わたくしには彼女がいる。彼女といっても電話で話すだけの関係である。昨日お昼から一人で呑んでいた。というのも普段はお昼過ぎに起きるのだが午前中に起きているという事は寝ていないだけである。夜に彼女か…

愚かなファッキンクライド

声が聞きたくて電話をしたわけではない。初老の債務者相手に何の魅力があるというのだ。魅力どころか心配なのである。電話口で痛みを訴えた君に対しまた心配をした。痛いのはこちらも同じである。それよりは軽いであろう痛みに対しまた心配をした。大切に大…

パキシル断薬 一年九ヶ月

ようやく一年九ヶ月である。全身の不随意にビリビリブルブルとした千切れそうな痛みに痺れも強くなっている。皮膚の皮下出血は減ったが皮膚の異常な痒みがある日がある。腹部の筋肉は肋骨に巻き込み全身の骨に肉が巻き付く痛み、最近では毎日、左首がジスト…

ディストピア

世界は様々な複合体として貼り付けられているが同時に脆く剥がれ落ちる。これは集団の細い隙間に風が吹くからである。ただでさえ膨張をしてゆく人間性をキュビズムの世界に納めているだけである。剥離された関係をもう一度、貼り合わせようとは思わない。二…

口唇欲求

中学三年生の時、初めて煙草を吸った。お付き合いをしていた中学一年生の男の子から教えてもらった。男の子はショートホープを吸っていた。わたくしの母と同じ銘柄であった。男の子は吸いかけの煙草をわたくしの口に付けゆっくりと吸ってごらん。と、言った…

懸ける

土曜日あの車が来るらしよ?一回、競りたいよね。今のところ一番速いらしいわ。わたくしはGT-Rの助手席に乗っていた。ゼロヨン会場に到着をすると噂を聞きつけてかいつもより車が多かった。遅れて到着をしたわたくし達を友人達が待っていた。助手席の窓を開…

虫が騒ぐ

階段の上から突き飛ばされ肉が叩きつけられる音と共に転げ落ちる友人を見た。かろうじて頭を守って落ちて行った。その友人を車の所まで引きずり下ろし車のトランクを開けた男性二名はゴルフクラブでうずくまる友人の背中を力強く何度も叩きつけた。それでも…

閉ざす口

人前で食べるという事が苦手そうな方がいた。お腹が空いている。と、言うのでわたくしが友人に買ってあげたパンを分けたのだが食べない。それでもお腹が空いている。と、言う。ようやく食べ始めたのだがわたくし達の方は見ないで食べていた。その方が帰った…

現実逃避

二十三歳まで休日になるとお昼過ぎに起きシャワーを浴びてから呑んでいた。夕方に寝て夜からまた呑む生活をしていた。この間、全く休日が無い期間もあった。受付の仕事の他に土日、祝日は生え抜き集団といわれる営農組合で鉄筋を組んでいた。事務屋が何をし…

滑り込む夜

能動的にわたくしを床に座らせた男性は背後から膝立ちでわたくしの顎を上げた。逆さまになった顔を近づけわたくしの口の中に煙草の煙を入れた。夜道を歩いていた時に呑み屋から出てきた男性に声をかけられた。無視をし通り過ぎたがもう一度、声をかけながら…

退廃的温度

昼から夜なのかも分からない薄暗い部屋で抱き合っていた。俺はいつも君の背中を追いかけていたんだよ?すぐいなくなるでしょ?ずっとこうしていたい。わたくしは何も言わなかった。何故ならばずっと一緒などないのである。それが死別であれ価値基準が変われ…

春だけの幸せ

みんな自動車学校を卒業しているけれど待ち時間に暇だろうから遊びに行ってやる。と、言ってくれた。ある日の事、友達が来なくて暇であったわたくしは食堂のマスターと話をしていた。夕方になり食堂内が薄暗くなってきたのに電気を点けないのでマスターに電…

ミディアムなコア

友人がわたくしの誕生日を祝うというのでレストランに行った。コース料理でメインはステーキ。店員が焼き加減はどうなさいますか?と、聞き、友人のたぁちゃんはミディアムレアで。と、言った。店員はミディアムもレアもたいして変わりありません。と、言っ…

太客

本来サクラというものは毎回毎回、自分の名前を変えなければならない。が、わたくしは声のトーンを変える事はできず言葉のイントネーションも独特らしくそのまま「りん」で名前を通していた。これは逆に言えば暇な素人のりんちゃんが電話をしている。という…

花は散る

友人二名がどこかに電話をかけだした。今日は暇だね。と、言いながら受話器を持っていた。しばらくして、あっ、初めまして○○です。と、偽名を使った。今、友達といて暇で電話をしました。と、言いながら受話器の向こうの相手はわたくしに電話を代わるように…

カマキリ

スーパーマーケットでレジ打ちのアルバイトをしていた。毎日来る配送業者の男性と顔見知りになった。三月二十五日、男性はレジの下の棚に小さなギフトバッグを置いた。誕生日プレゼント!わたくしは接客中であったから話はできなかったがレジ待ちのお客さん…

黒塗りの夜

黒いスラックスにヴェルサーチのシャツを着た彼は髪の毛をセットしていた。そこにある革靴、磨いておいて。ねぇ?どこに行くの?あいつねぇ、ちょっと悪さしてねぇ、女の家にいるみたいなんだよね。知っている?その女。うん、同級生だよ。釧路に逃げたって…

一転

ワインレッド色のセダンが来た。学校までまだ早いな?ちょっと遠回りしてやるわ、煙草一本、吸えるぐらい。いつも連んでいる友人であったが助手席に乗るのは初めてであった。放課後、迎えに来た彼とわたくしの部屋にいた。何か二人でいるの変な感じがするね…

疲れきっていた

連休中、友達のおばあちゃんの家に一緒に泊まりに行く事になった。初めて行く田舎町、バスに揺られながら。着くと農家をしているというおばあちゃんや息子さんがいて二世帯家族の賑やかさを見た。わたくしの両親は共働きで一人っ子のわたくしは一人静かに食…

絡まる

退学と同時に別れていた姉ちゃんの元彼氏がバイク事故を起こしたと聞き電話をした。怪我はしていない。と、言った。とりあえず家にお見舞いに行った。季節は秋になっていた。学校の様子や退学をした友達の近況を話した。俺がいなくて寂しかったでしょ?と、…